研究課題/領域番号 |
25245013
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田村 善之 北海道大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (20197586)
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研究分担者 |
吉田 広志 北海道大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (70360881)
比良 友佳理 北海道大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 助教 (40733077)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 知的財産法 / 特許 / 著作権 / 商標 / 不正競争防止法 |
研究実績の概要 |
本年度は、まず総論として、知的「財産」と呼ばれているものの実態が、単に人の行為の規制であるに過ぎないことを指摘し、国際的に知的財産権の過剰な強化が進行するなかでは、そのような政策形成過程のバイアスを強化する方向に働くメタファーを基底に据えるべきではないということを明らかにした。 各論に関しては、著作権と表現の自由との関係について、立法過程が健全に稼働していることを前提とする単純な二重の基準論ではなく、政策形成過程にバイアスが存するために利用者を過剰に規制することになりがちであるという著作権法制をめぐる立法過程のバイアスに対して司法による矯正を図るというところに、表現の自由を保償する意義を求めるという観点からの研究の成果の発表を開始した。また、特許の分野では、特許権というものは、最終的なありうべき行為規制に向けて、出願から登録、侵害訴訟にいたるまでの間に、特許庁、裁判所等の機関が様々な事情を考慮する一連のプロセスのなかで、特許庁の審査が終わったという通過点を通ったに過ぎないという理解に基づき、特許庁段階で判断されていない関係特殊的投資、地位の非対称性その他の事情を裁判所が審査して差止請求権を否定することが望まれるという観点から、アップル対サムソン知財高裁大合議判決の意義を検討した。その他、不正競争防止法の営業秘密の不正利用行為規制に関して、秘密として管理していることが認識可能な程度に管理していれば十分とする緩和説を打ち出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
総論に関しては、知的創作「物」や知的「財産」というメタファと政策形成過程のバイアスとのインタラクティヴな関係を指摘し、それを制度論につなげていく手法を展開するという本研究の眼目は抽象論としては一区切りをつけることができる段階に到達した。昨年度は、研究代表者の田村が、法学関係の学会として国内最大級の規模を誇る私法学会の民法部会のシンポジウムにおいて、本研究の知的「財産」という概念に関する理解を披露するとともに、それに向けて同シンポジウムの登壇者を中心とする民法の研究者の研究会に参加し、その成果を論文という形で公表することに成功した。 本研究の手法は、本拠点自身が、知的財産法研究会、知財サマーセミナー(毎年度8月に札幌で開催。今年度の参加者は147名。うち弁護士・弁理士は合わせて77名)、環太平洋知的財産フォーラム(ワシントン大学、早稲田大学、台湾大学、ソウル大学、人民大学と共催。平成26年度は10月にソウルで開催)、知財若手研究者育成シンポジウム(名古屋大学と共催、平成26年度は7月に名古屋で開催)、知的財産法政策学研究(発行部数1,350部)を通じて、その普及と社会への還元を図っている。こうした本研究の手法が、国内の学会や実務において注目されていることは、平成26年度は前述したように私法学会の民法部会シンポジウム等の学会ばかりでなく、弁理士会、東京弁護士会、第二東京弁護士会、大阪弁護士会、公正取引委員会等が主催するシンポジウム、講演会などに田村が講師として招待されたことに示されている。さらには、本研究の手法は国際的にも注目されており、田村や研究分担者の比良が、欧州、米国、中国、台湾、韓国に多数回、招かれている。こうした研究の成果は、政策にも反映されており、本研究が提唱した営業秘密の秘密管理要件に関する緩和説は、経済産業省が改訂した営業秘密管理指針に反映されている。
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今後の研究の推進方策 |
総論に関しては、抽象的な総論はほぼ完成したので、今後は、より具体的にメタファーの危険性を実証していく作業をさらに発展させ、成果に結びつけることを企図している。そのために、人々の意識と法制度との間のインタラクティヴな関係を明らかにするために、著作権の規制に対する人々の意識に関する実態調査を踏まえてありうべき法制度を探究する作業を継続し、成果に結びつけたい。また、総論と各論の橋渡しとして、イノヴェイションを実現する規範定立に向けての試行錯誤(muddling through)という観点から、知的財産高等裁判所の運営に関する批判的な検証を行う作業に着手したいと考えている。そのうえで、各論のレベルで、具体的な知的財産法制の課題に対して提言を行う作業を継続する。 こうした活動により得られた成果を、引き続き、知的財産法研究会、知財サマーセミナー、知的財産法政策学研究、さらには、他大学との共催による環太平洋知的財産フォーラム、知財若手研究者シンポジウム等を通じて社会に還元していく。
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