研究課題/領域番号 |
25245044
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研究機関 | 政策研究大学院大学 |
研究代表者 |
伊藤 隆敏 政策研究大学院大学, 政策研究科, 教授 (30203144)
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研究期間 (年度) |
2013-10-21 – 2017-03-31
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キーワード | 為替レート / 高頻度データ / 効率性 / 裁定 / 介入 / 仲値 |
研究実績の概要 |
本年度は、第一に外国為替市場の効率性の検証のうち三角裁定の取引実現可能性について研究を進めた。為替取引における裁定機会の存在は、昨年度までに検証を進めたが、今年度は、裁定機会の取引を実行しようと注文を出すと、どれくらいの確率で取引が実現していたと考えられるかを検討した。つまりデータ上で裁定機会が存在することを認識してから注文を出し、それが取引に結びつくかどうかをデータから推測したうえで、取引実現確率を考慮にいれた実現可能な裁定機会利益の計算方法をしめした。 第二に、東京における仲値決めの時刻前後の為替レート変化についての研究をすすめた。東京とロンドンでは、一日の対顧客取引に適用する為替レートのベンチマークである「仲値(fixing)」を決める時刻が決まっている。東京では9:55である。この時刻の前後一分間に活発な取引が行われることは、多くの論文で発見されている。さらに、ロンドンでは、銀行のトレーダーの談合による為替レート操作が行われていたのではないか、という金融監督当局の摘発があり、罰金が科されている。東京の仲値決めではこのようなことは起きない、とされている。なぜなら、各行がそれぞれの仲値を発表しているので、談合の必要がないからである。しかし、東京では、仲値決めの時刻の周辺でドル円の急上昇、急下落が起きていることがわかった。その理由として、銀行は仲値をできるだけ自行が抱えている注文在庫から見て有利なほうに誘導しよう、という行動がある、ということを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでのところ研究は順調に推移している。研究の第一テーマ(市場の効率性の検証)では、主要3通貨を含む三角裁定機会の検証を、裁定機会利益を狙って、実際に取引として注文を出した場合に、どれくらいの確率で成功していたか、という検討を行った。その結果、概ね2005-06年にアルゴリズム取引が盛んになると、裁定機会の発生頻度は低下、利益額は減少した。しかし、多くの場合、取引は実行可能であったことが示された。一方、アルゴリズム取引は確実に、外国為替市場のマイクロ・ストラクチャーを変更させていた。裁定機会発生の頻度も減り、発生後は、ごく短時間のうちに裁定機会は解消されていたことが分かってきた。アルゴリズム取引は市場を効率的にしていることが示された。一方、アルゴリズム取引は、1秒以下のごく短時間の見せ玉も可能にした。見せ玉に反応する売買指値の変化、取引高の変化を研究したが、いまだ公表論文としてはまとめきれていない。 第二のテーマは仲値決めの時刻前後の取引指値の入り方、為替レートの変化についての検討をおこなった。東京市場の仲値は、仲値決定の時間帯の取引平均価格からはバイアスがあることが分かった。投稿原稿にまとめて、投稿中である。 以上の研究成果は、投稿が採用にいたっていないなど、公表成果にはなっていない。引き続き、ジャーナルに投稿することを予定している。
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今後の研究の推進方策 |
第一のテーマでは、裁定機会の発生と、その解消の過程をどのように説得的に提示するかが、今後の課題である。理論モデルでは裁定機会は存在しない、と仮定される。しかし、現実には裁定機会を狙って、多額の投資が行われている。素早く取引を実現するアルゴリズムが開発されている。アルゴリズムの発達が、市場の厚み(流動性)、価格変動性などに与える影響を検討する。第二のテーマでは、東京に絞って、仲値決めの制度(microstructure)、仲値決め時刻における銀行の行動にどのような影響をあたえているのか、を検討する。それと平行して、ロンドンの仲値決めにおいて、金融監督当局による不正摘発後の2014年度の制度変更が、為替レート変動や取引額の変動にどのような影響を与えたかを研究する。 平成28年度は、本研究の最終年度を迎えるために、これまでの研究を有機的に結合させた上で、展望論文をまとめる。更に公表論文のまとめを行う。対象には裁定機会の発生とその解消、マクロ統計の発表時刻、アルゴリズム取引、仲値取引の分析、が含まれる。
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