外国為替市場において、毎日2回(東京市場の午前9:55と、ロンドン市場の午後4時)「仲値決め(fixing)」が行われる。仲値決めとは、銀行とリテールの顧客との間の取引に適用する為替レートを決定する市場慣習のことである。この慣習が仲値決定時刻前後の為替市場の為替レート変動、取引量、ビッド・アスクの板(いた)の厚さ、などに与える影響について研究した。東京の仲値決めと、ロンドンの仲値決めが主要なものである。この二つには制度的に大きな違いがある。ロンドンでは、午後4時を挟む1分間の取引価格の中央値を仲値として、WMロイター社が発表するものである。そして、WMロイター社の仲値を、全ての銀行が、対顧客取引に適用している。銀行間に仲値の差はない。一方、東京では、各銀行がその銀行の顧客だけに適用される仲値を発表しているために、仲値は銀行間で必ずしも同一にはならない。ロンドンでは、2013年に、仲値決めについて、銀行間で談合があったということが発覚した。談合により、銀行は、あらかじめ、増価しそうな通貨を値上がり前に調達してしまう、ということができる。つまり、値上がりは仲値決めの前に起きていた。さらに仲値決めの取引をサンプルする1分間のなかでも、前半に多くの取引が集中していた。談合問題を受けて、2015年に改革が行われた。仲値決めの時間を5分間に延長し、また、銀行は談合や価格操作の疑いを掛けられるのを嫌い、機械的に注文を流すようになった。その結果の分析をおこなった。東京市場では、各行がそれぞれの仲値を発表するので、価格操作に談合する必要もなく、各行が自由にバイアスをかけた値決めができる。実際に東京市場では、多くの日において、ドル高にバイアスのかかる仲値が公表されてきたことを明らかにした。その要因には日米金利差と、顧客注文がドル買いに偏っている市場の特性が原因であることを明らかにした。
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