研究課題/領域番号 |
25245046
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
原 千秋 京都大学, 経済研究所, 教授 (90314468)
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研究分担者 |
木島 正明 首都大学東京, 社会(科)学研究科, 教授 (00186222)
田 園 龍谷大学, 経済学部, 准教授 (10609895)
西出 勝正 横浜国立大学, その他の研究科, 教授 (40410683)
深澤 正彰 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (70506451)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ミクロ経済学 / 金融工学 / 数理ファイナンス |
研究実績の概要 |
本研究課題の研究代表者・分担者による本年度の査読付き学術誌への公刊論文は6編,学会報告は17件に及ぶ.その中で特に,以下の2つの研究結果を紹介したい.(1)金融機関が金融商品の取引に課す仲介料は,取引相手である企業や機関投資家にとっては取引費用である.この研究では,金融機関による自己勘定取引の可否が,均衡において達成される証券価格,仲介料,取引量,および投資家の厚生にいかなる影響を及ぼすかを明らかにした.米国の金融当局が採用したボルカー・ルールは,金融機関による自己勘定取引を規制しているので,この研究は学術的に意義深いだけでなく,政策的にも重要である.(2)取引額に比例的な取引費用が存在する場合には,ブラックとショールズのオプション価格付け公式の導出に使われる複製取引戦略に要する取引費用の総額は必ず無限大であり,したがって実用に供さないことが知られている.本研究では,取引額に比した取引費用の割合が比較的低い場合,金融派生商品(特にヨーロッパ型コールオプション)の値付けに不可欠な複製取引戦略を明示的に導出した.取引費用を少額に抑える複製戦略を明らかにしたことは,新たな中心極限定理の導出が必要であっただけでなく,多くの金融機関の業務の根幹を成す,金融商品の価格付けに理論的裏付けを与える点で,意義深い. このような研究実績に加え,コンファレンスの開催などを通じて,関連領域の研究の情報の収集や,本課題の研究成果の発信に努めてきた.具体的には,定例研究会を3回開いたほか,国内研究集会,一般向けシンポジウム,国際コンファレンスをそれぞれ1回ずつ開いた.特に,一般向けシンポジウムでは,ストレステストの実務と課題という,金融業の喫緊の問題を取り扱い,実務家と研究者が意見を交換する機会を提供した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
取引費用を伴う金融市場の均衡分析が本研究の主題だが,その具体的内容は多岐にわたる.その様々なトピックに研究代表者・分担者が取り組んでいて,「研究実績の概要」で紹介した結果の他にも,それぞれの領域ですでに幾つも研究結果を得ている.たとえば,インターバンク市場では,貸出期間や担保要件の違いによって,複数の金利が存在するが,そのような環境で,無裁定取引条件に基づく金融派生商品の値付けの理論を数学的に厳密に展開する試みを始めた.また,一見非効率と思われるポートフォリオも,金融商品のリターンに曖昧さ(確率を付与できないような不確実性)が内在すると想定することで,最適となり得るという結果も得たが,これはポートフォリオ選択における各種アノマリー(特異な現象)を説明する可能性を持つ. 研究分担者による結果を定例研究会で議論した他,昨年7月の研究集会や今年3月の国際コンファレンスで,他の研究領域との関連を明らかにし,一般化・精緻化をどのような方向で進めるべきかに関する示唆を得た.また,今年1月のシンポジウムでは実務家と問題意識を共有する機会に恵まれた.本研究の今後2年間は,これまでの個々の研究分担者の成果を統合することで,こういった問題意識から生ずる問題を,実務家と連携して解決する段階である.これまでの進捗状況を鑑みると,そのための下地は十分に整えられたと言える.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,各領域で得られた研究結果の有機的関連を明らかにした上で,定例研究会で,学術的に未解決な問題を特定する.定例研究会は主に代表者と分担者で構成されるが,外部から講演者を招いて意見を聞くことで,研究計画を練っていく予定である.具体的には,「研究実績の概要」と「現在までの進捗状況」に記した(1)売買価格差を仲介料収入として受け取る金融機関による自己勘定取引の影響の評価(2)取引費用が存在する環境での複製戦略の特徴付け(3)複数の金利が共存する場合の金融派生商品の価格付け(4)曖昧さ回避的な投資家に最適なポートフォリオの特徴付け,といった課題に,流動性制約や担保要件も取引費用の一形態とする視点を加えて,取り組んでいく.また,研究結果を実務に供するためにも,最適ポートフォリオや均衡価格を効率よく数値的に解く方法も追求する. このようにして得られた研究結果を今年度の後半に開催する国際ワークショップで報告してフィードバックを求めると同時に,新たな研究の動向を察知する.年明けには実務家向けシンポジウムを開催し,取引費用全般に関わる問題への関心を探るとともに,パネルディスカッション等の意見交換の場を提供したい. 本研究の最終年度は来年度である.最終年度では取引費用が金融市場の均衡にもたらす影響を包括的に解明するような研究結果を得たい.特に,学術的に意義深いだけでなく,実務上も重要な問題に対する処方箋を与えたい.今年度は,この準備として,学術と実務のそれぞれの領域で研究を深化させ,重要かつ意義深い問題を設定することを目的とする.
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