研究課題/領域番号 |
25245084
|
研究機関 | 日本大学短期大学部 |
研究代表者 |
山口 雄仁 日本大学短期大学部, 一般教育, 教授 (00182428)
|
研究分担者 |
藤芳 明生 茨城大学, 工学部, 准教授 (00323212)
渡辺 哲也 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (10342958)
鈴木 昌和 九州大学, マス・フォア・インダストリ研究所, 名誉教授 (20112302)
相澤 彰子 国立情報学研究所, コンテンツ科学研究系, 教授 (90222447)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | インクルージョン / デジタル教科書 / バリアフリー / 視覚障害 / 発達性読字障害 / DAISY / EPUB |
研究実績の概要 |
本課題研究を構成するA~D各研究グループの平成26年度の達成点は以下の通りである。 A. デジタル教科書製作・編集・閲覧ソフトウェア開発グループの山口は鈴木と協力し,開発中のソフトウェアにおいて,DAISY形式の電子書籍に点字を埋め込む機能や総ルビ自動付加機能等の実装,トルコ語・チェコ語等日本語・英語以外の言語版の試作,逐次動画製作やHTML5形式出力等の改良などを行った。また手書き文字・数式入力機能を備えた読字障害生徒用電子書籍プレイヤーを試作した。 B. デジタル教科書用文書解析・変換システム開発グループの鈴木はPDFに埋め込まれた文字・記号情報を直接利用した,PDF科学文書の認識精度を大きく向上する新たな処理方法を開発した。また,PDFから切り出された矩形領域を自動認識して,A.のソフトウェアに障害生徒が利用可能な形でカット・アンド・ペーストする機能を実装した。藤芳は,見えない2次元コードを使用した音声付教科書の作成システムを活用し,音声埋め込みPDFフォーマットのデジタル教科書の自動生成機能を実現した。 C. 触読図製作・閲覧システム開発グループの渡辺は,フリーのグラフ作成・統計ソフトRを利用し,理数系における触読図の中心である触知グラフを自動で生成するソフトウェアを開発した。ソフトウェアをWebアプリ化し,支援者は一般のアプリと同じ操作体系で触知グラフを作成でき,かつ視覚障害者はスクリーンリーダでこのWebアプリを利用することができる。 数式中の変数は抽象化された概念表現で,変数名を書き換えても形式的な意味は変化しないという特性を持つが,大規模な木構造に対する既存の検索手法ではこれに対応できない。D. 数式検索・理解支援技術開発グループの相沢は,変数名の書き換えに対して頑強で,かつ既存手法と同等の計算効率を持つ木構造類似度計算手法を提案し,その有効性を実証した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は,本課題研究を構成する各研究グループにおいて,開発中のソフトウェアの改良や関連する調査を概要に示した通り概ね順調に実施した。それらの技術を統合した「バリアフリー・デジタル教科書」の標準モデル確立に向けて,一層近づいたと言える。昨年度に比べて,査読のある論文投稿や国際会議講演も多くなり,研究成果が順調に上がっていることを示している。 広報活動としては,平成26年7月5日~8日にフランス・パリのパリ第8大学を会場として開催されたICCHP夏期大学に参加し,欧州各国の視覚障害理数系大学生・支援技術者・教師を対象として,本課題研究で開発中のソフトウェアに関する特別講義を行った。 平成26年8月22日, 23日にフランス・パリのパリ第6大学を会場として開催された国際図書館連合主催の国際会議(一般講演),平成26年11月24日~26日にインド・ニューデリーで開催されたユネスコ主催の国際会議(招待パネリスト)に参加し,世界各国の図書館・出版社,政府・支援団体・障害者団体の関係者を対象として,本課題研究の成果を報告した。8月にはパリに引き続いてトルコ・アンカラに向かい,視覚障害学生支援団体のメンバーと,ソフトウェアのトルコ語化に関する協議も行った。 平成27年2月7, 8日には日本大学理工学部駿河台校舎を会場として,研究集会「科学情報の電子化・自動処理,およびそのアクセシビリティ」を開催し,我々の研究成果を報告するとともに,参加した他研究者から関連発表を聞き,意見交換を行った。また,8日午後には一般向けの講習会「マルチメディアDAISYコンテンツ制作システム ChattyInfty3」を開催した。なお昨年度に引き続き,日本障害者リハビリテーション協会・日本点字図書館と協力して,開発中のソフトウェアを利用したDAISY形式の数学・理科教科書政策にも取り組んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成27年度はそれぞれの研究グループごとに次の分担で調査・研究開発を行う。また,平成28年2月に国際研究集会を開催する予定で,5月中に国際プログラム委員会委員の選定・依頼,6月に投稿論文募集の案内発送とホームページ開設,10月に査読結果の通知というスケジュールで,分担者・連携研究者と共同で準備を進める。 A. デジタル教科書製作・編集・閲覧ソフトウェア開発グループ: センター入試での利用を念頭に,視覚障害者・読字障害者のためバリアフリーなデジタル・テストを製作できるように,開発中のソフトウェアを改良する。そのためには,たとえば設問と対応する回答欄の間をワンタッチで行き来できるようにする等,DAISY形式の拡張が必要となる。また,Bグループと協力してHTML5形式のアクセシブル・コンテンツの改良,システムの多言語化などにも引き続き取り組む。 B. デジタル教科書用文書解析・変換システム開発グループ: 出版社から提供される教科書のデジタルデータは,現在は殆どがPDF,テキストおよびJPEG画像データである。鈴木は昨年度に引き続き高校数学を対象とし,PDFの文字・記号情報や文書論理構造を解析して,PDFをアクセシブルなEPUBやWord形式に変換するための研究を行う。藤芳は,音声埋め込みPDFの研究をさらに進める。 C. 触読図製作・閲覧システム開発グループ: 平成26年度に製作した触知グラフ製作システムを発展させ,理数系教科書に現れるさらに幅広いグラフや図について,触知化を効率よく行えるシステムを開発する。 D. 数式検索・理解支援技術開発グループ: 高校数学教科書中を対象として,教科書中の数式や記号に容易にアクセスするための検索およびナビゲーションリンク生成手法を引き続き研究する。特に,教科書を横断する検索やリンク生成について試験的な実装を行い,有効性を調べる。
|
備考 |
日本学術振興会平成26年度科学研究費補助金等により,平成27年2月7, 8日に開催された研究集会,講習会のホームページ。
|