研究課題/領域番号 |
25246002
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
赤木 和夫 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20150964)
|
研究分担者 |
松下 哲士 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90589186)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 三重結合部位 / 共役複素環ポリマー / 炭素化収率 / キラルネマチック液晶 / 不斉電気化学重合 / ヘリカル炭素化物 / 形態保持炭素化 / 配向グラファイト |
研究実績の概要 |
1. 巨視的配向したグラファイト化物の生成 これまでスパイラル形態を有するヘリカルグラファイトを種々の前駆体(ヘリカルポリアセチレン、ヘリカルPEDOT)を用いて調製されてきたが、意外にも電気的異方性が期待される配向グラファイトの調製は実施されていない。また、調製した炭素化物およびグラファイト化物の力学強度および結晶化度を高める上で、巨視的に配向した共役ポリマーは有力な前駆体となり得る。そこで、本研究代表者らにより開発されたアセチレン重合法である「脱溶媒法」および「無溶媒法」を用いて、引張り強度やヤング弾性率に富んだ高強度・高延伸性ポリアセチレン(配向性PA)を合成した。この配向性PAを力学的に延伸して高配向PAを得た。次に、高配向PAに対してヨウ素ドーピングを施し、これを前駆体として高温熱処理を行い、巨視的に配向した炭素化物およびグラファイトを調製した。配向炭素化物および配向グラファイトについて、配向度の評価および電気的異方性の発現を確認した。 2.天然ポリマーの炭素化 炭素化前駆体として天然ポリマーを用いることで、新しい炭素化物およびグラファイト化物を調製できると期待される。天然ポリマーの一つであるアミロースは、多数のα-グルコース分子がグリコシド結合(α1→4結合) によって重合した直鎖状の多糖類である。アミロースはヨウ素デンプン反応により、青~青紫色を呈色する。これはアミロースのチューブ状構造の中に、ヨウ素が包摂されて電荷移動錯体を形成するためである。このことは、アミロースは共役ポリマーではないが、ヨウ素と電荷移動相互作用をすることを示唆している。そこで、アミロースフィルムをメタノール・水混合溶媒に浸した後、ヨウ素の気体を晒すことでヨウ素ドーピングを行い、炭素化を行った。炭素化収率は30%でフィルムの原型を留めた炭素化物を得ることに成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
炭素化前駆体として合成共役ポリマーを用いて形態保持炭素化を行ってきたが、天然ポリマーを前駆体として用いることで、新しい炭素化物およびグラファイト化物を調製することが可能となった。同時に、天然ポリマーを前駆体とする炭素化において新しい知見を見出した。 1.天然ポリマーであるアミロースは、α-グルコース分子が重合したもので、水素結合によるらせん状チューブ構造をとっている。ヨウ素はアミロースのチューブの中に包摂されると電荷移動錯体が形成され、そのためヨウ素デンプン反応を示す。この電荷移動錯体は、アミロースの炭素化において形態保持と炭素化収率の向上を可能とすることを見出した。 2.一方、同じ天然ポリマーであるセルロースはβ-グルコースが重合したものであり、水素結合によりシート状になっている。セルロースはヨウ素と電荷移動錯体を形成しない(ヨウ素デンプン反応を示さない)ため、セルロースではヨウ素添加による形態保持炭素化は不可能である。しかし、ヨウ素の代わりに、脂肪族または芳香族スルホン酸を添加して炭素化すると、スルホン酸による脱水効果によって、形態保持のみならず炭素化収率の向上にもつながることを見出した。
|
今後の研究の推進方策 |
1.不斉液晶を溶媒とする電解重合により、スパイラル形態を有するヘリカルポリエチレンジオキシチオフェン(H-PEDOT)を合成し、電気化学的酸化ドーピングを行うことで、形態保持炭素化およびグラファイト化を実現する。また、H-PEDOTに対して、アルキルスルフォン酸を添加してプロトンドーピングを行い、高温加熱に伴う脱水反応を促進して、形態保持炭素化が実現できるかどうかを検証する。 2.三重結合部位をもつ共役複素環ポリマーを前駆体とする炭素化物の生成 炭素化物の前駆体である共役系高分子に三重結合を加えることで炭素化収率の向上が期待できる。そこで、二つのチオフェン環あるいは二つのエチレンジオキシチオフェン環を三重結合からなるジアセチレン部位で連結した複素環化合物(M1,M2)を合成し、これらをモノマーとする電解重合により複素環ポリマーを合成する。次に、これらのポリマーに対して、電気化学的ドーピングを行い、炭素化前駆体とする。引き続き、炭素化を行い、ジアセチレン部位を持たない複素環ポリマーと比べて、炭素化収率および形態保持の度合いを比較する。 3.上記に合成したM1およびM2について、キラル液晶を溶媒とする不斉電解重合を行い、新規のスパイラル形態を有する複素環ポリマーを得る。電気化学的ドーピングを施した後、熱処理により炭素化物およびグラファイト化物を得る。前駆体であるポリマーのスパイラル形態が保持されているかどうかを検証する。
|