研究課題/領域番号 |
25246005
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大岩 顕 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (10321902)
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研究分担者 |
樽茶 清悟 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40302799)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 量子ドット / 量子コンピュータ / 量子中継 / 半導体物性 / 光スピン量子インターフェース |
研究概要 |
本年度は2つの課題を挙げ、以下の通り成果を上げた。 1)信頼性の高い角運動量転写の実現:研究代表者による先行研究(基盤研究A)で開発した量子井戸構造を有する量子状態転写用2重量子ドットを使い、ドット間トンネルを使った信頼性の高い光生成単一電子の検出を実現し、円偏光単一光子照射と組み合わせて、円偏光と生成される単一電子スピンの向きに一対一の対応がある角運動量転写を実証することに成功した。これは本研究の非常に重要な成果である。またスピン検出の信頼性を決定する主要な要因として、当初の計画にはなかった磁場下でのスピン緩和に関する重要な知見を得た。 2)部分的角運動量転写の観測:1)に続いて、部分的量子状態転写を実現すべく、量子状態転写の条件を満たす条件下で光生成単一電子スピンの検出を試みた。しかし軽い正孔状態のスピン分裂の大きさが十分ではないことと励起効率が悪かったため、達成することはできなかった。この点を改善するために井戸厚が厚い新しい基板をドイツWieck教授に依頼し、新しい量子ドット試料の作製を行った。 3)光生成単一電子のスピン操作(量子ゲート操作):本年度は、電子スピン制御のための高周波系の導入と併せて、電子スピン高速検出のための高周波反射系の導入も完了した。また電子スピン操作のための微小磁石を有する量子ドット素子もその作製法をほぼ確立した。しかし上述のように量子状態転写の条件を満たす試料作製に少し時間を費やしたため、年度内にスピン回転の実証という当初の目標を達成することはできなかった。しかし年度内に新たな試料が完成し、実験を再開している。 加えて本年度の予算で既存レーザーを高出力化し、もつれ光子源開発に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度当初、主に3つの課題に取り組んだ。そのうち、1)の信頼性の高い角運動量転写については目標通り達成することができた。これは今後の研究遂行大変大きな成果である。この過程で、光スピン検出の信頼性を決める要因を特定するという当初計画にない成果も得ている。また新たに光源を導入しもつれ光子対源の開発に着手した点も計画通り遂行できている。 一方で、次の点は少し遅れが生じている。2)部分的角運動量転写の実験も行ったが期待した結果は得られなかった。これは電子と正孔のg因子など量子状態転写を実現する量子ドットのパラメータの設計に問題があるためであることがわかり、その改善に取り組む必要が生じたためである。しかし当初の全体計画では量子状態転写の達成は平成26年までを想定しているため、深刻な遅れではない。 また3)光生成電子に対するスピン操作にについて、電子スピン制御のための高周波系の導入を行ってきた。同時に高周波反射系を利用した高速スピン検出にも取り組み、おおむねスピン操作と高速検出に目途が立ったものの、上述の通り量子状態転写の条件を満たす安定な試料作製に時間がかかり、年度内に予定の成果を達成することはできなかった。しかし現在測定は進行中である。 以上のとおり、目標をきちんと達成できた課題がある一方で、遅れが認められる課題もあるるが、当初の全体計画の想定内であり、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、今年度達成できなかった課題のうち、量子状態転写の実証に必要な光生成単一電子スピン操作とその高速検出を重点的に進める。また量子ドット作製用半導体基板に分散ブラッグ反射構造を導入して、共振器により光との結合を向上させることで、実験の効率化を図る。これらの周辺技術を改善することにより、部分的あるいは回転操作と組み合わせた量子状態転写転写の達成を目指す。今年度、明らかになった問題点の一つが、GaAs系量子ドットの量子状態転写に必要な軽い正孔状態からの励起効率が悪いことであった。そこで当初の計画通り重い正孔からも量子状態転写が可能な自己形成InAs量子ドットにも前年度以上に重点を置く。素子の設計や実験装置は前年度まででほぼ整っており、実験を継続して行い目標の達成を目指す。 これと並行して、もつれ光子源の測定系への導入を進め、もつれ光子を量子ドットで検出することを目指す。
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