研究課題/領域番号 |
25246005
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大岩 顕 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (10321902)
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研究分担者 |
樽茶 清悟 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40302799)
山本 倫久 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00376493)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 光子-電子スピン量子状態転写 / 単一もつれ光子-電子変換 / 量子ドット |
研究実績の概要 |
光子-電子スピン変換を基本とした量子通信の実現にはもつれ光子対を保持し、操作可能な系が必要とされている。本研究では単一電子スピンを操作可能な横型量子ドットにもつれ光子を捕捉することを目標とした。 それに向けて重要な要素が光子の吸収効率であり、それを高めるため誘電体多層構造を配したGaAs系基板を設計、作成を依頼し、量子井戸の励起波長に合わせた共鳴波長に見合う反射波長を有する基板の検証を試みた。さらに同基板上に量子ドット用電極の作成、集光用高誘電体微小レンズを配置し、低温下での動作検証と共に集光効率の向上の実証を試みた。一方で、もつれ光子-電子対確認に向け光学系と電気系間の同期系を開発し、実際に時間相関の測定を実現した。 更なる光子吸収効率の向上のために、重い正孔状態からの量子状態転写にも取り組んだ。まずはじめに重い正孔状態が有限の面内g因子を持つInAs自己形成ドットについて、単一光子検出に不可欠な電荷計を実現するため、並列2重接合素子を作製してその特性評価を行った。 また単一電子スピン検出法として量子ホールエッジ状態とGaAs量子ドット結合系におけるスピンフィルターの研究を行い、スピン検出効率を決めるスピンフィルター効率がゲート電圧による局所ポテンシャル制御で調整できることを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
依頼した基板の波長特性を室温で評価、理論計算と照合し、同一基板内にもサブナノメートルの層厚の揺らぎに由来する波長分布があることを確かめるとともに、量子井戸吸収波長に見合う基板領域を得た。もつれ光子対発生に関しては非線形BBO結晶を使用し従来 通り光発生効率が望まれるパルスレーザーを光源として、もつれ対が伝搬しているとされる方位を推定するに至った。単一光子検出の際、光子相関測定器を利用して光源との同期確認を行いつつ検出光子の時間相関を観測することができた。以上の結果は量子ドットの作成を含めた低温での光応答の評価へとつながる。 InAsドット系の電荷計素子を作製できたが電荷検出の達成には至っていない。しかしGaAs系ドット-量子ホールエッジ状態結合系でのスピンフィルター効率の電気制御というスピン検出にかかわる新しい知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は得られた新基板上に量子ドットを作成し、これまで達成した事柄と組み合わせ単一もつれ光子の捕捉、検出、相関の検証が望まれる。方策として、まずは発生させた光子対を希釈冷凍機内に配置された量子ドット試料へと照射し単一光子検出と、偏光の相関測定実証を目指す。ここで重要な要素として光子対捕捉効率が挙げられ、その効率次第で光励起電荷検出 の速度、試料の安定性、同期の精度等の測定環境に関する要件が変わり得る。従ってまずは量子ドットの作成ともつれ光子捕捉の実現が急務である。それと同時にもつれ光子対源の量子相関を確認や光子-電子相関の測定機構の確認が必要である。 更なる光子捕捉効率向上のため、重い正孔からの励起も継続して行う。InAs自己形成量子ドットの電荷検出の実現を目指す。これらのドットの2重量子ドットを実現し、スピン検出に必要なパウリスピンブロッケードの達成を目指す。平行して(110)GaAs基板上の量子井戸の作製を行い、アンサンブル測定により重い正孔からの量子状態転写を実証したうえで、量子ドットを作製しもつれ光子実験へ展開する。 光子捕捉効率の改善の更なる手法として、数十ミクロン四方程度の大面積受光面を持つ素子を作製し、受光面で量子状態転写された単一電子を電場あるいは表面弾性波で量子ドットへ輸送する技術を開発する。
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