研究課題/領域番号 |
25246012
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
向井 敏司 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40254429)
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研究分担者 |
清水 良央 東北大学, 歯学研究科(研究院), 助教 (30302152)
山口 正剛 独立行政法人日本原子力研究開発機構, その他部局等, 研究員 (50360417)
ALOK Singh 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, その他 (60354213)
池尾 直子 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80647644)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ヘテロ・ホモ構造 / 粒界凝集エネルギー / 結晶粒微細化 / 生体内分解性 / 高靱性 |
研究実績の概要 |
平成26年度は生体内分解性マグネシウム合金に高強度-高靱性を具有させるために有効な添加元素配置を第一原理計算により明らかにした。また、計算で得られた組成からなる合金を試作し、強ひずみ押出加工を施すことにより、サブミクロンオーダーの等軸結晶粒からなる素材を作製した。作製した材料について機械的性質を評価することにより、強度ならびに靱性の改善効果を検証した。詳細を以下に示す。 結晶粒界は結晶格子が不連続であるため、転位集積などが要因となり、破壊の基点になりやすいことが知られている。本研究では純マグネシウムの対称傾角粒界{11-21}を比較的高エネルギーを有する粒界としてモデル化した。粒界近傍に第一元素としてカルシウムを配置し、安定構造を特定した上で、第二元素として亜鉛、および、アルミニウムの安定配置を決定した。界面分離モデルにより界面凝集エネルギーを算出したところ、純マグネシウム、Mg-Ca、Mg-Ca-Zn、Mg-Ca-Alの順に高いエネルギーを示し、界面が強化される計算結果を得た。 引張試験を行った結果、作製したサブミクロンオーダー結晶粒材料は400MPaを超える高い降伏強度を示し、かつ、二元合金より三元合金の方が高強度であったことから、合金添加の効果を明確にすることができた。また、高速三点曲げ試験を行い、き裂の発生から一定長さ進展した後の吸収エネルギーを比較すると、純マグネシウムと比較して、三元合金は高い値を示したことから、き裂進展に要するエネルギーは、本研究で実施した合金添加により高くなる、すなわち、靱性が高くなることがわかった。試験後の破面を観察したところ、純マグネシウムでは粒界破壊に起因する破面形態を示すのに対して、試作合金ではディンプルを主体とする延性破面を形成していることを確認し、第一原理計算による界面強化の裏付けを実験を通じて明確にすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究概要で示した計算に加えて、すべり変形の異方性が変化する効果について、原子面を平行移動することにより生じる一般化積層欠陥エネルギーを第一原理計算により算出し、底面方向ならびに柱面方向のエネルギー比を比較した。元素添加によるエネルギー比を比較したところ、純マグネシウム、上記の二元、三元合金の順に1に近づく結果が得たれたことから、すべり変形の異方性が改善される効果を計算により明らかにすることができた。 また、高速三点曲げ試験による靱性評価では、純マグネシウムと比較して、Mg-Ca-Zn、Mg-Ca-Al合金では、き裂が鈍化しており、発生に要する塑性ひずみの増大が明瞭に観察された。この実験結果は第一原理計算で得られた変形異方性の低減効果と良い一致を示していることから、カルシウムと亜鉛、もしくはカルシウムとアルミニウムの複合添加は単なる界面強化にとどまらず、変形異方性の低減による塑性変形能の改善をもたらすことを実験から明確にし、計算科学により元素添加の役割を理解することができた。 他方、計算により機械的性能の改善が確認された試作合金について、等軸結晶組織を維持したまま粗大化させる熱処理を施し、軟組織を固定するためのクリップを試作した。試作したクリップは常温で破断すること無く閉口することができたので、ラットを用いた動物実験を神戸大学医学部肝胆膵外科分野との共同研究として実施した。血管を閉鎖したラットは8週経過後も正常に活動していることから、外科手術に適用可能な生体内分解性を有するクリップに有効な性能を確認することが出来た。 以上に示すように、第一原理計算、材料創製、機械的性能評価、動物実験による性能検証を軸とした研究計画は順調に進展しており、当初の目標である「ヘテロ構造を有効に活用した生体内分解性マグネシウム合金」を創製する方策の妥当性を確認することができている。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は最終年度であるため、ヘテロ組織構造を形成するための最適な合金成分を明らかにする材料創製試験を継続して行う。また、第一原理計算については、前年度に構築した三元合金の粒界モデルを用いて、水素の影響を調査し、水素脆化の効果について検討を進める。試作した合金について、高速三点曲げ試験を実施し、高強度化とともに高靱性を得るためのヘテロ組織を明確にする研究を推進する。 他方、生体内分解性を検証するために、大型動物の骨組織へ適用可能なモデルネイルを試作し、生体内分解性が望まれている骨固定用デバイスとしての機械的性能を検証するとともに、分解性能および生体組織への安全性を検証する。 以上の第一原理計算、モデル材料創製、強度-靱性評価による機械的性能の検証、動物実験による生体内分解性の検証を総括し、新しい高強度-高靱性を有する生体内分解性マグネシウム合金の創製原理を確立する。
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