研究課題/領域番号 |
25246019
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
白石 誠司 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30397682)
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研究分担者 |
安藤 裕一郎 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50618361)
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研究期間 (年度) |
2013-05-31 – 2016-03-31
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キーワード | スピンエレクトロニクス / シリコン / 純スピン流 / スピントランジスタ / スピンカロリトロニクス |
研究実績の概要 |
H26年度における最大の成果は非縮退半導体領域にあるn型シリコンにおける室温スピン輸送の達成とMOSFET構造におけるバックゲート電圧印加によるスピン輸送の制御、それに伴うシリコンスピンMOSFETの室温動作の達成である。このシリコンスピンMOSFETでは、電荷の輸送とスピンの輸送がゲート電圧によって制御される。スピンは最大で21ミクロンもの長距離を室温で伝導できるがこれは後述のスピンドリフトによるアシスト効果が非縮退半導体では顕著となるためであると理解できた。現時点ではn型シリコンのドーピング濃度は1e18(cm-3)程度であり、素子構造の最適化が不完全であるためにon/off比は十分ではないが、ドーピング濃度についてはあと2桁程度減少させたシリコンチャネルにおけるスピン伝導にも目処がたってきたほか、それに伴いon/off比も改善の兆候がある。本成果は米国物理学会科学誌であるPhysical Review Applied誌に掲載されたほかプレス発表も行い、幸い日本経済新聞をはじめ各紙で報道された。上記の成果の基盤となったのがシリコン中のスピンドリフトの定量的見積もりであり(H25年度の成果)、これによってチャネルに垂直に磁場を印加しスピン歳差を観測するHanle効果振動のドリフト速度依存性を明瞭に観測することができたことが、この非縮退シリコン中のスピン輸送の観測が確実に実現できることの直接的証拠となった。このように初年度の成果が2年目の大きなブレイクスルーへと繋がったことは研究の順調な進捗を意味する。 研究の更なる深化という意味では、H26年度には熱流がスピン流を生むことによるスピン信号の観測に成功した、という点が挙げられる。従来のこのようなスピンカロリトロニクス研究は金属と絶縁体が用いられたが、本成果は半導体スピンカロリトロニクスという神領域の開拓という点で重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
縮退半導体領域におけるシリコン中のスピン輸送の学理をスピン拡散、スピンドリフトの両面から完全に定量的に理解することができたほか、非縮退半導体領域におけるシリコン中での室温スピン輸送にも世界に先駆けて成功し、シリコンスピンMOSFETの室温動作にこれも世界で初めて成功し、大きなセンセーションを巻き起こした。更に半導体スピンカロリトロニクスという新学術領域の開拓にも成功した。 もう1つの重要な観点は、シリコンスピントロニクスにおける長年の議論、即ちいわゆる電気的3端子法がスピン輸送とスピン蓄積を実現するための信頼できる手法か否か、という議論に決着をつけたことである。2012年以来、研究代表者は一貫してこの手法の問題点を指摘し続けたが、2015年3月のアメリカ物理学会におけるシンポジウムで遂にこの手法の提唱者が間違いを認め、長年の議論に決着を付けられた。このことはシリコンだけでなく半導体スピントロニクスすべてにおいて極めて大きな学術的意味を持つ。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は(1)n型シリコンにおいて更に低濃度のドーピング濃度を有するシリコンチャネルにおける室温スピン伝導の実現とシリコンスピンMOSFETの室温動作、(2)p型シリコンにおける電気的スピン伝導の実現、(3)H26年度にその嚆矢を得たシリコンスピンカロリトロニクス、即ち熱流を電気信号に変換する技術の向上と学理の定量的理解、の3点を目標とし、達成の暁にはシリコンスピンカレントロニクスとシリコンスピンカロリトロニクスの融合による、新機能デバイスの創出と新学術領域の確立を目指し、更なる研究の飛躍のための基盤を構築することを目指す。
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