研究課題/領域番号 |
25246025
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長谷川 修司 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00228446)
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研究分担者 |
平原 徹 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (30451818) [辞退]
高山 あかり 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70722338)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | トポロジカル絶縁体 / スピン流 / スピンホール効果 / 電流誘起スピン偏極 / 多探針走査トンネル顕微鏡 |
研究実績の概要 |
今年度は、下記の2例の2次元超伝導を発見した。これは2原子層程度の薄さの2次元電子系での超伝導であり、新しい超伝導研究の対象として極めて興味深い成果と思われる。 (1) シリコン基板上でのタリウム・鉛原子層表面超構造Si(111)-√3×√3-(Tl+Pb)での超伝導の発見:この表面超構造はTlが1原子層、Pbが1/3原子層から構成されるが、これを超高真空中で作成して極低温で電気抵抗を測定したところ、2.25 Kで超伝導転移を起こすことを発見した。その温度対抵抗曲線は2次元の熱ゆらぎ理論による計算値とよく一致した。また、表面垂直方向に磁場を印加して求めた上部臨界磁場から計算されるコヒーレンス長は22nmであった。また電流電圧特性曲線の非線形性から2次元系超伝導が示すBKT転移が起こっていることが示された。この表面の光電子分光の先行研究から、この表面状態はラシュバ分裂していることがわかっているので、対称性の破れた超伝導系である可能性が高い。 (2) Caをインターカレートした2層グラフェンでの超伝導の発見:東北大学から試料提供を受けた2層グラフェンに、超高真空中でCaをインターカレートし、その場で極低温で電気抵抗を測定したところ、2 Kで超伝導に転移することを発見した。不均一系のようで、転移がやや緩慢であるが、ゼロ抵抗を示した。この系の光電子分光法の先行研究から、層間状態が超伝導転移しているといえる。 (3) カーボンナノチューブ探針の作成:磁性金属でコーティングしたカーボンナノチューブSTM探針を作成し、STM動作を確認した。来年度では、この探針を用いて、スピン分解した電気伝導の測定を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、2種類の2次元超伝導を発見し、しかも、その一つはスピン分裂した表面電子状態での超伝導であったので、本研究のメインのターゲットであるスピン分解した電気伝導測定のための試料物質として極めて魅力的なものを見出すことができた。そこで、スピン分解電気伝導測定を早急に実現したいと考えている。そのために、今年度において、磁性金属でコーティングしたカーボンナノチューブSTM探針を作成して、その動作確認を行ったことは着実な進展であるといえる。今後、この磁性探針の磁気状態をキャラクタライズして目的とする測定を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度において、磁性薄膜でコーティングしたカーボンナノチューブ探針を作成できたので、まず、その探針先端での磁化方向の同定を行い、その次に、スピン依存の電気伝導測定を行う。例えば、磁性探針からスピン偏極した電流を非磁性体に注入し、ある距離離れたところで第2の磁性探針を使って電位を測定すると、距離に依存してスピンの歳差運動のために、検出される電位が振動的に変化することが予想される。まずはこの現象(Hanle効果)を観測し、スピン依存の電気伝導の証拠としたい。次に、3次元トポロジカル絶縁体の表面や2次元トポロジカル絶縁体での端付近で同様の測定を行い、非トポロジカル物質との違いを明らかにする実験を行う。
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