本研究は、地球深部環境における水素の振る舞いを、高温高圧下の中性子回折実験をプローブとして解明することを目的とした。そのためまず研究目的に適した高温高圧実験の試料構成の開発から始め、得られた試料構成を用いて東海村J-PARCに建設したPLANETと名付けられた高温高圧中性子回折実験装置を用いて鉄-含水ケイ酸塩系の実験を何度か繰り返した。当初は3年で研究を終了する予定であったが、全く予期しなかったJ-PARCのトラブルが発生し中性子実験が長期間できなくなるなどの影響で1年間期間を延長し、平成28年度にとりまとめを行った。得られた実験結果の解析から、地球生成初期を想定した鉄と含水ケイ酸塩の混合体を6GPa下で1000K程度まで加熱すると、ケイ酸塩からはき出された水が鉄と反応して、FeOとFeHxを生成し、FeOはケイ酸塩と反応して鉄を含んだオリビンやパイロキシンを生成し、鉄は水素化されて融点が500℃近く低下することが明らかになった。 現在の地球核は鉄-ニッケル合金が主成分であるが、密度が純鉄のそれより10%程度低く、どんな軽元素がどの程度溶け込んでいるのかが、地球科学で第一級の問題として種々議論されてきた。軽元素としては水素以外にもSi、S、Oなどが候補として挙げられているが、本研究の結果はそれらが鉄に溶け込むよりずっと低温の原始地球でまず水素が鉄に溶け込み、それによって鉄融点の大幅な低下が起きて核-マントルの分離が起きた、というシナリオを強く示唆するものである。この結果をまとめた論文をNature Communications 誌に投稿したところ無事受理され、平成29年1月に出版されて日経を始めいくつかの新聞紙上でも報道された。それにより当初の研究目的を達成したので、本研究は終了した。
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