研究課題/領域番号 |
25246038
|
研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
海老原 充 首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (10152000)
|
研究分担者 |
藤 暢輔 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門・原子力基礎工学研究センター, 研究主幹 (60354734)
松尾 基之 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (10167645)
三浦 勉 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 物質計測標準研究部門, 研究グループ長 (70371078)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | J-PARC / 物質・生命科学実験施設 / ANRRI / JRR-3 / MPGA / 即発ガンマ線 / パルス中性子 |
研究実績の概要 |
本研究は大強度パルス中性子源J-PARCの物質・生命科学実験施設に設置した中性子核反応測定装置(以下、ANNRIと略称)と大強度中性子源JRR-3原子炉に設置した多重即発ガンマ線測定装置(以下、MPGAと略称)を用いて、新しい元素分析法の開発を行い、宇宙・地球化学試料、環境科学試料、標準物質試料のそれぞれに適用して、分析法としての特徴を明らかにする事を目的とする。ANNRIにおけるパルス中性子を用いた即発ガンマ線実験データに、中性子ビームの自己遮蔽効果、ガンマ線の自己遮蔽効果、データ収集系のデッドタイムおよびパイルアップの補正を行った結果、高い精度で補正が達成された。また、TOF-PGA法を群分離後のTc・白金族元素を模擬した試料に適用した結果、従来法では解析が困難であったものが、TOF-PGAでは非常に明瞭なピークが確認できた。照射試料の厚み(質量)と即発γ線強度の関係を調べるために、厚みの異なるPd-Ag合金をJ-PARC ANNRIでパルス状中性子を照射し、即発γ線を測定した。また、低融点金属中の水素の測定の可能性を検討した結果、測定条件を改良することで数10ppmレベルの水素が測定できる可能性があることが分かった。2016年度に、試料を作成し、亜鉛中の水素分析を試行する予定である。環境試料へ適用例として、考古学試料の異同分析を試みた。試料には、東大寺(奈良県)の大湯屋の鉄湯船(重要文化財)とその周辺で発見された鉄断片を用いた。しかし、施設トラブルによって平成27年度の測定ができず、測定試料の作成や測定のシミュレーションなど実験の事前準備を行った。特に、同位体比の測定精度を高めるために、試料形状や測定方法などを改めて検討した。平成28年度には本試料を用いた実験を行う予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、研究用原子炉JRR-3における連続中性子を用いる多重ガンマ線測定と、J-PARCのパルス中性子を物質・生命科学実験施設に設置されたANNRIで測定することによって推進することを計画しているが、東日本大震災以降、JRR-3が休止しており、現在にいたっても運転再開の見通しは立っていない。一方、J-PARCにおいても、パルス状中性子を生成する水銀ターゲットに事故が発生し、平成27年度のマシンタイムは大幅に減らされることになった。このように、実験施設のトラブルによって、平成27年度の実験計画はかなりの遅れを生じる結果となった。そうした中で、装置系の改良が予定した以上に進展し、今後の施設利用再開の後には大きな成果が得られるものと期待される。このような状況から、全体として進捗状況に関しては「やや遅れている」と判断せざるを得ないが、「おおむね順調に進展している」課題もあり、必ずしも悲観的状況とはなっていない。
|
今後の研究の推進方策 |
J-PARCの物質・生命科学実験施設のANNRIを用いた実験は、平成 28年度には予定通り実施できる見込みである。平成27年度に、測定の効率化、高精度化を図るための実験装置の改良が行われ、大きな進展が見られる結果が得られた。具体的には中性子ビームの自己遮蔽効果、ガンマ線の自己遮蔽効果、データ収集系のデッドタイムおよびパイルアップの補正がかなりの確度で実施できる見込みが得られた。また、昨年までに整備された中性子フラックスモニター値の自動取得や、オートサンプルチェンジャーと測定系の同期が計らえたこと等により、測定をほぼ完全に自動化できる目処がたった。測定者にとってフレンドリーな汎用性の高い、分析コードを開発し、最新の核データ情報を取り込んだ、信頼性の高い共鳴分析測定法が確立した。このような、実験環境が大幅に改善していることから、装置の稼働状況が予定通りであれば充分なる成果が得られるものと期待される。一方、JRR-3の運転は平成27年度に引き続き、平成28年度も休止の状態がつづくものと考えられる。原子炉を代表とする連続中性子源を利用した元素分析は現在のところ、日本で実施することは不可能な状態である。こうした異常事態は一刻も早く改善されることを切望する。
|