研究課題/領域番号 |
25246044
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
佐々木 節 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 計算科学センター, 教授 (50259983)
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研究分担者 |
村上 晃一 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 計算科学センター, 講師 (10353369)
藏重 久弥 神戸大学, 先端融合研究環, 教授 (20205181)
山下 智弘 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (20567086)
大町 千尋 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (20588967)
阿蘇 司 富山高等専門学校, 電子情報工学科, 教授 (30290737)
歳藤 利行 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (30377965)
田中 覚 立命館大学, 情報理工学部, 教授 (60251980)
木村 彰徳 足利工業大学, 工学部, 教授 (60373099)
尾崎 正伸 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, その他部局等, 准教授 (90300699)
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研究期間 (年度) |
2013-10-21 – 2017-03-31
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キーワード | 放射線シミュレーション / 並列計算 / GPGPU |
研究実績の概要 |
放射線シミュレータGeant4から、放射線の水中における相互作用を扱うために必要な部分を抜き出し、CUDA言語で再実装し、MPEXSと名付けた。Geant4とMPEXSは、完全に同じアルゴリズムとデータを利用しており、その結果が一致することも確かめた。性能を向上させる努力を引き続き行い、仮想人体(水ファントム)に対し、20MeVの電子と6MVおよび18MVの光子を入試した際の計算時間の比較を行った。Xeon E5-2463v2 3.5GHzの1コアを使ってGeant4により計算した場合に比較し、NVIDIA K20cカード一枚で計算に要する時間は、何れの場合でも、約250分の1まで短縮することに成功した。Xeon Phi 3120c(57コア)を同時に2基用い、同様に計算時間の比較を実施したところ、Xeon E5-2463v2 3.5GHzの1コアを用いた場合の約25分の1の時間を要した。MPEXSは、Geant4の非常に限られた機能しか実装していないので、公平な比較とは言えないが、CUDA版を開発しGPUを用いる意義を認めることができた。 細胞レベルの放射線による物理および化学反応を扱うためのパッケージGeant4-DNAをCUDA言語で再実装し、MPEXS-DNAと命名した。この研究は、Geant4-DNAを主として開発しているフランスのCentre d'Etudes Nucleaires de Bordeaux Gradignan(CENBG)と協力して行った。Geant4-DNAとMPEXS-DNAは、統計誤差の範囲内で一致することを確かめた。計算時間を比較するために、Xeon E5-2463v2 3.5GHzの1コア上でGeant4-DNAを実行した場合と、NVIDIA K20cカード一枚でMPEXS-DNAを実行した。物理反応に関しては、MPEXS-DNAをGPUで実行した場合は、Geant4-DNAをXeon 1コアで実行した場合の約260の1の計算時間時間を要した。化学反応においては、約150分1の時間を要するという結果であった。さらに性能向上を図る努力続ける一方、現実的な応用を模索している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
CUDA言語を用いてMPEXSおよびMPEXS-DNAの実装を続けている。最適化を行うことで、前年度における成果と比較して、さらに実行時間の短縮に成功した。今後もさらに実行時間は短縮できるものと考えている。MPEXSは、水中における電磁相互作用のみを扱っているが、LINAC治療などのX線治療のシミュレーションを行うためには十分な機能である。すでにCTの標準出力形式であるDICOMとのインターフェイスの実装も終了しており、医学物理分野における応用が期待できる。
MPEXS-DNAを開発することにより、Geant4-DNAに含まれている全機能を用い、細胞レベルにおける放射線の影響をGPU上でシミュレーションすることが可能となった。DNAレベルの相互作用をシミュレーションするためには、複雑な相互作用を網羅する必要があり、MPEXS-DNAはMPEXSと比較し、コードのサイズも、必要な入力データの量も増えた。当初は、性能が思わしくなかったが、様々な改善を行うことで、大幅な性能の向上を実現することができた。現在も性能向上の努力を続けているところではあるが、CUDA版を開発し、計算にGPUを用いることの有為性が既に確認できた。Geant4-DNAは、計算時間の長さが問題となり、現実的なケースのシミュレーションを行うための障壁となっている。GPUを用いることにより、安価に計算速度の短縮を行えることが示されたので、MPEXS-DNAの広い分野における応用が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
MPEXSおよびMPEXS-DNAの更なる最適化を行い、計算時間の短縮を引き続き行う。これまで、Kepler世代と呼ばれるNVIDIA K20cを用いて計算時間の測定を行ってきたが、新たに市場に投入される予定のPascal世代のGPUのGPUを用いたいと考えている。コアのクロックが向上し、GPUカード上のメモリの転送性能が向上するだけではなく利用可能な量も増えることから、大きな性能向上が期待される。Pascal世代のGPUは、需要の過多による供給の問題が懸念されている。入手できない場合に備え、フランスのCC-IN2P3が導入予定のケプラー世代のGPUであるK80を複数搭載したGPUクラスタを利用したベンチマークテストも行う予定である。これまでは、GPUを一枚だけ利用していたが、複数のカードを同時に利用し、さらに並列性が高まることにより、乱数の取り扱いを慎重に行う必要がある。標準の乱数発生器で十分かどうか検討を行う。
MPEXS-DNAを応用し、具体的な問題に対しての適用性を確かめたいと考えている。単なるベンチマークに終わらず、「科学」としての成果を得ることを目標に、適切な課題を模索する。Geant4-DNAを主として開発しているCENBGと協力し、適切なアプリケーションを実装し、性能評価を行うことを目標としたい。
MPEXSは、現状では、物質として水、形状としてはボクセルのみを扱っている。現実的な数の物質とCADとのインターフェースを実現するために必要な形状を扱うための検討を行う。入射粒子として、中性子や陽子を扱うことが可能となれば、BNCT(中性子捕獲療法)や粒子線治療のシミュレーションを行うことが可能となるが、そのためには、電磁相互作用のみならず、原子核反応も実装しなければならない。 MPEXS-DNAを実装した経験から、それらの機能を実装した場合も、同様の性能向上を実現できると考えている。最終年度であることから、こららすべてを実装まで終了することは困難であるが、将来に向けた研究を行う。
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