研究課題/領域番号 |
25247001
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
伊吹山 知義 大阪大学, その他部局等, 名誉教授 (60011722)
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研究分担者 |
若槻 聡 金沢大学, 数物科学系, 准教授 (10432121)
佐藤 文広 立教大学, 理学部, 教授 (20120884)
北山 秀隆 和歌山大学, 教育学部, 講師 (20622567)
桂田 英典 室蘭工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80133792)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 整数論 / 代数学 / ジーゲル保型形式 / 跡公式 / 微分作用素 / L関数 / 特殊値 / 特殊関数 |
研究実績の概要 |
(1)2次ジーゲル保型形式のジーゲルモジュラー群に関するヘッケ作用素の具体的な跡公式は様々な型の共役類の寄与の和であるが、非半単純共役類の寄与を記述する方法を、ひとつの型を除き、すべて与えることに成功した(若槻聡との共同研究)。 (2)ヤコービ形式について、次の3つの新しい定理を与えた。一般の行列インデックスを持つスカラー値の高次ヤコービ形式は、その第2変数に関するテーラー展開の係数が、みな本質的にはベクトル値のジーゲル保型形式になること。これはスカラーインデックスの場合に研究代表者により以前証明されていた定理の一般化である。次にレベル2インデックス1の2次ヤコービ形式の構造を決定した。最後に、任意のレベルのヘッケ型群に付随するインデックス1の正則または歪正則ベクトル値ヤコービ形式は、レベル 4N の半整数ウェイトのベクトル値ヤコービ形式のプラス部分空間に属するものと1対1に対応することを、指標がつく場合を込めて証明した。これは、N=1 のときには研究代表者および林田秀一による結果であり、その拡張となっている。 (3)ジーゲル上半空間の部分領域の制限に関してよい振る舞いをする微分作用素を決める球関数について、一見特殊な対角成分への制限については、研究代表者と Don Zagier が精密な理論を構築していたが、他の一般の領域への制限の場合も、実はすべてこれらで記述でき、前記の理論は特殊と言うよりは基礎理論であるという実に意外な結果を発見した。 (4)以上について、ドイツや中国等、国内外の研究集会で多数の成果発表を行うとともに、マックスプランク研究所、清華大学等を訪問して、研究打ち合わせを行った。また英文論文を4編以上執筆し、このうち一つについては、すでに印刷公表された。研究分担者も成果のリストに見るようにそれぞれの範囲で研究を発展させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究全体の核心をなす、跡公式の具体的な記述という点で、非半単純共役類の寄与の記述が最終段階にさしかかっており、来年度には、おそらく終了すると思われる点で、着実に進歩していると考えてよいと思う。このうち、一つの型については、公式と言うよりは具体的な計算手続きという形にとどまっており、また他の一つの型についてはまだ結果は得られていないが、これら以外の型については、最終的な公式と呼べる形で記述できているので、相当程度進歩したといえる。残りは半単純共役類の寄与であり、これはもっと難しいことが想定されるが、少なくともその生成する環が極大整数環のときは、具体的なアイデアを持っており、このまま推進していけば、なんらかの結果がでるものと期待している。 これに関係する多数の周辺的な研究は、非常に進展しているといえる。たとえば、 ジーゲル保型形式上の微分作用素の理論は、一見特殊理論に見える対角成分への制限に関してよい振る舞いをするものに対応する高次球関数の理論が、実はすべてのブロックへの制限の場合の基礎になっていることがわかるという、極めて思いがけない進展があり、今後の発展が大いに期待できる。 昨年までに、研究代表者が提示した、半整数ウェイトと整数ウェイトのジーゲル保型形式の対応予想、Harder の合同予想、シンプレクティック群の実形間の対応予想など、背後に豊富な数学が控えており、総合的に思惑通りに発展していると言うことができると思う。跡公式をめぐる数学対象を重層的に発展させるというこの計画の研究目的は十分達成されつつあると思う。
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今後の研究の推進方策 |
跡公式に関する研究で、非半単純共役類のすべての型についての理論を最終的に解決することが、まずやるべきことである。実際には、まだ最終的に計算できる形になっていない型が一つ、またすでに計算手続きが確定している場合でも、より美しい公式という形で書けることが期待される型が一つあり、これを完成させる。以上は分担者若槻との共同研究を継続する。跡公式の研究は既に長期にわたっているにもかかわらず、成果発表をあまり行っていない。非常に複雑な最終公式を得るの前に技術的な細部だけを個別に発表するという機会がなかなか無いというのが理由である。しかし、非半単純共役類の寄与だけでも中間的にきちんとまとめて発表することにも意義があるかと考え検討している。また従来と同様に、並行的に周辺の保型形式論を重層的に研究する。跡公式というのは、これをどのように用いるという意識で計算しているかというのが常に問題となっている。この周辺部分の発展がこの研究計画の価値を真に発揮する部分であるといっても過言ではないので、一層のこのような重層的な発展を目指す。世界の研究動向では一般的相対跡公式を理論に適用するという方向もあるが、われわれの方向はこれとは異なり、あくまで特殊な個別的対象を具体的にシャープに記述することにその目的がある。分担者に限らずこれに似たテイストをもつ研究者、たとえば D. Zagier, S. Boecherer, C. Poor, D. Yuen, その他の人々とも幅広く連携して研究を行うことが必要となる。2015年度に研究代表者は半年ほどマックスプランク研究所に行き Zagier と共同研究を行い、また2つの国際研究集会に出席する予定のほか、日本での研究集会に外国人研究者を招聘する予定である。ドイツの優秀な若手などとも連携して研究を推進していきたい。
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