研究課題/領域番号 |
25247002
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
栗原 将人 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (40211221)
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研究分担者 |
藤井 俊 金沢工業大学, 基礎教育部, 講師 (20386618)
松野 一夫 津田塾大学, 学芸学部, 教授 (40332936)
八森 祥隆 東京理科大学, 理工学部数学科, 准教授 (50433743)
田中 孝明 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (60306850)
小林 真一 九州大学, 数理学研究院, 教授 (80362226)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 岩澤理論 / 整数論 / ゼータ関数 / Stark予想 |
研究実績の概要 |
岩澤理論は、整数論の中で大変活発に研究され発展している分野、理論のひとつである。岩澤理論の中核をなすのは、いわゆる岩澤主予想と呼ばれる関係である。この関係を簡潔に述べると、イデアル類群や楕円曲線のSelmer群さらにはその一般化にあたるさまざまなcohomology群などの数論的に重要な群への Galois 群の作用から決まる特性多項式(代数的なもの)が、p進 L 関数というp進解析的なゼータ関数と一致する、というものである。われわれは、代数的なものとp進解析的なものとの間に上記のような特性多項式以上の詳しい関係がある、という岩澤理論の精密化について、さまざまな観点から研究している。また、ゼータ関数、L関数の整数点での値(特殊値)と代数的対象物との間のつながりについて、新しい観点から研究を進めている。 この年度に得られた成果について述べると、King's College London の Burns、および平成28年の前期は大阪大で、後期から大阪市大に移った佐野昂迪との共同研究による、ゼータ元の理論の研究について次のような新しい成果が得られた。s=0でのゼータ関数の値に対応する Rubin Stark元の一般化として、s が一般の整数のときに(s が負であっても正であっても)、ゼータ関数の値と対応する代数的な元の一般論を構成し、これらの元がなす p 進的な合同式を正確に定式化することに成功した。この合同式は、Kummer の合同式の膨大な一般化と考えることができ、こうして p 進族が得られることから、岩澤理論的な性質を説明することができる。またこの予想と、今まで知られていた他の予想、たとえばp進Beilinson予想やSolomonの円単数の一般化についての予想などを、われわれの理論を用いて解釈することに成功し、その意味で、今までの理論に統一的な観点を与えることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Stark 予想によって存在が予想される Stark 元、あるいはその整的な性質まで考えてRubin Stark 元と呼ぶことにすると、この元を一般のモチーフあるいは p 進表現に一般化することを以前から考えていたが、Tate モチーフ Z(r) に一般化するだけでも、今まで予想されていたり、知られていたりすることを統一的な観点から見ることができるような、見通しの良い理論ができることがわかってきた。このことから、研究は順調に進展していると言ってよいと思う。なお、この理論は、同変玉河数予想の述べるゼータ元の理論とは異なっている。同変玉河数予想のゼータ元は、複体の det という抽象的なところに住んでいるのに対し、Stark 元は単数群の外冪や、コホモロジーの外冪というわかりやすい世界に住む元である。 また、岩澤加群の Fitting イデアルの完全な決定に関して、ミュンヘン防衛大の Greither 教授と、今までにない新しい方法を使って研究を進めている。この研究もおおむね順調に進んでいる。 2016年6月にカナダのBanffで行われた岩澤理論の研究集会で、また 2016 年 7 月に台北の台湾国立大学で行われた Pan Asia Number Theory Conference で、上記の Z(r) の Stark 元の理論について講演した。また、2016 年 10 月にドイツのルードヴィッヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンで岩澤加群の Fitting イデアルについて講演した。
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今後の研究の推進方策 |
Stark 元の理論については、異なる整数点に対応する Stark 元の間に合同式が存在することを正確に予想したが、この予想と、今まで存在していた他の予想との関係をこれからさらに調べることにより、この予想の正当性を得ることはもちろん、さらに統一的なゼータ元、Stark元の理論を作っていきたいと考えている。特に、明示的相互法則との関係を調べることは重要であると考えている。また、実際に数値計算によって検証可能な例を構成することも重要であると考えている。同変玉河数予想が予想するゼータ元と比べて、われわれのStark元はわかりやすい数論的対象物の元となっているので、これらの元を具体的に得ることは、さまざまな分野で整数論の進歩につながるものと考えている。さらに、このStark元の理論がこのようにうまくいっているので、これを一般のp進表現でも構成したいと考えている。特に、保型形式に伴う表現に対して、この理論を考えることは、楕円曲線や多くの有名な問題に適用可能となることもあり、大変重要な問題であると考えている。このときに、いくつかの困難があり、これを乗り越えることを考えていきたい。 有限次代数体上の楕円曲線および保型形式に伴う表現に対応する Selmer 群の Fitting イデアルを正確に計算することにより、岩澤理論の精密化を定式化する理論を、来年度も継続して研究していきたいと考えている。Mazur Tate 元の性質を詳しく調べ、岩澤理論の正確な精密化のためには、どのような形の元が正しいのかを、正確に、詳細に調べていく計画である。この理論に関しても、実例を豊富に研究したいと考えている。
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