ASTRO-H (Hitomi) 衛星に搭載されたX線マイクロカロリメータを用いた高エネルギー分解能X線分光検出器は,2016年2月10日の打ち上げ後,順調に立ち上げ運用を行い,試験観測を実施したが,その途中の3月26日に,衛星の姿勢制御装置の問題により衛星が機能を停止してしまった。この時点ではまだSXS観測装置は完全な状態ではなかったため,この試験観測データの観測装置較正はノミナル運用で想定した方法とは全く異なる方法で実行する必要があった。たとえば,X線マイクロカロリメータの5eVのエネルギー分解能を生かして 1eVの精度でエネルギースケールを較正するために特殊なX線源(Modulated X-ray Source)を搭載していたが,3月26日の時点ではMXSはまだ動作していなかった。そのため,Fe55を照射したcalibration pixelの情報と,Fe55に短時間だけ全pixelに照射したデータに頼らざるをえなかった。このような問題はあるものの,可能な範囲の較正を行い,ペルセウス銀河団の観測に関する論文を発表するところまで至った。
X線観測による暗黒物質の観測的研究として,暗黒物質が崩壊して作られた Axion Like Particle (AXP) を地球磁場との Primakoff effectを使ってX線で探査する方法について研究した。特定のX線源のない方向を観測している時に,視線方向に積分した地球磁場の視線垂直方向成分の強度とX線強度の相関を調べることによって,その上限からこの素過程で発生するX線の上限値を求めた。その際には,荷電粒子によるバックグラウンド強度の注意深い解析が必要であった。
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