研究課題
基盤研究(A)
本研究グループはレプトンフレーバーを破るミュー粒子崩壊μー>eγを探索するため、国際共同実験MEGを中軸として行なってきた。昨年ついに物理ランを終了し、いよいよMEG II実験に向けて本格的に検出器開発を推進している。本研究は、特にバックグラウンド事象の削減に決定的に重要となるガンマ線検出器の飛躍的な性能向上を、新しい光センサーによる高精細シンチレーション光読み出しにより実現することを目指している。当該年度は、まず液体キセノン中で使用可能な新しい光センサーMPPCの開発を継続し、光センサーの試作品を完成させた。具体的には、真空紫外光に感度のあるMPPCに対して浜松ホトニクスの新技術の導入を行い、金属抵抗の導入も同時に行なった。さらに有感面積の大型化により波形の時定数が伸びる問題が生じたが、12mm角のMPPCを6mm角のMPPC4つに分割し、それらの直列接続を行なうことにより波形の時定数を短くすることに成功した。また、真空紫外光に感度を持たせるために保護膜を取り除いたため、センサーがむき出しになることを避けるため、表面に石英窓をつけ、さらに6mm角のMPPC4つをひとつのパッケージとする設計を行った。最終的に、プロトタイプ検出器用のMPPCを110個製作した。読み出し回路の整備としては、MPPCに特化した波形取得装置の開発に取り組み、MPPCに必要なアンプを搭載した試作ボードのテストを行ない、ノイズレベルが十分小さいことを確認した。
2: おおむね順調に進展している
本年度において液体キセノン中で使用可能な新しい光センサーMPPCの試作品を完成させるという目標は達成された。特に浜松ホトニクスの新しい技術の導入等により運転電圧領域の増加、アフターパルスの低減、金属抵抗の導入によるクエンチ抵抗の温度係数の減少などが実現された。また、光センサーの大型化では避けて通れないキャパシタンスの増加を、12mm角のMPPCをセグメント化して直列接続を行なうことにより、波形の時定数の短縮にも成功した。また、MPPCのパッケージの設計の完成を通してMPPCの試作品の購入まで到達したという意味において、順調に進展していると言える。また、読み出し回路の整備にも着手し、本格的な試作ボードの製作までこぎつけた。この点についても当初の予定通りといえる。
昨年度に製作したMPPCの試作品を常温で測定するセットアップの準備を行なう。6mm角のMPPCを4つ直列接続する設計であるが、その接続はプリント基板上で行なうため、ピンはそれぞれ独立に出力されている。まずはこの6mm角のMPPCの基礎特性を独立に常温で測定する。具体的な測定項目としてはブレークダウン電圧、ゲイン、相対的なPDE、ダークレート等を予定している。並行して、液体キセノン温度における性能評価を実現するために、600個のMPPCまで導入可能なプロトタイプ検出器の製作に着手する。低温においては、センサー4つの直列読み出しを基板上で実現し、本番同様のセットアップでセンサーの総合的な性能評価を行なう。このデータと常温データを比較することにより、実機に向けたMPPCの導入前の較正実験の検討を行なう。一方、昨年度に製作したMPPCでは、まだクロストーク抑制の新しい技術は導入されておらず、この技術の我々の試作品への導入も検討されている。現在運転電圧はこのクロストークに制限されており、この抑制によりさらに運転電圧の増加が期待され、ゲイン、PDEのさらなる向上が期待される。この試作品の開発を完了し、さらに数百単位の試作品の製作までを目指す。
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2012 IEEE NSS Conference Record
巻: N22-7 ページ: 1589-1594
10.1109/NSSMIC.2012.6551379