研究課題/領域番号 |
25247037
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
柴田 利明 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (80251601)
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研究分担者 |
中野 健一 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (20525779)
澤田 真也 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (70311123)
後藤 雄二 独立行政法人理化学研究所, 仁科加速器研究センター, 研究員 (00360545)
宮地 義之 山形大学, 理学部, 准教授 (50334511)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 反クォーク / 海クォーク / フレーバー非対称性 / 陽子 / ドレル・ヤン過程 / スピン構造 |
研究実績の概要 |
研究の目的は、ドレル・ヤン過程を用いた陽子内の反クォークのフレーバー非対称性の探求である。それに加えて、J/psiの生成断面積を測定することも同時に行っている。SeaQuest実験では、水素、重水素のほか、原子核標的(炭素、鉄、タングステン)も同時に使って測定が行われている。 平成25年度に取得した実験データの解析結果については、平成27年3月に日本物理学会年次大会で、ドレル・ヤン過程の物理実験成果を発表した。次いで4月にアメリカの物理学会で同様に発表をした。それぞれ東工大の大学院生とアメリカの大学院生が発表者となった。その際の、解析したデータの統計量は、予定される全データの10%であり、Previewとして、日本の物理学会の大会では、重陽子標的と陽子標的のドレル・ヤン過程断面積の比を発表した。アメリカの物理学会の大会では、更に1カ月のデータ解析を反映し、反dクォークと反uクォークの比を発表した。 これにより、SeaQuestが、当初目的としていた通りBjorken x の大きな領域をカバーして反dクォークと反uクォークを測定できることを示した。その統計誤差も、現在取得・解析済みのデータの量に照らして予想通りであり、実験は順調に推移していることを示している。 技術的な面では、SeaQues実験の中で日本グループが中心になって運転しているドリフト・チェンバーは、4台あっていずれも大型のものであるが、順調に稼動しており、荷電粒子の運動量を決定するのに目的通りの性能を発揮している。ミューオン対の運動量の決定により仮想光子の質量が決定され、反クォークのBjorken xも決定される。それらの精度も実験の提案書に書かれた値に達していることが確かめられている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
加速器から引き出された陽子ビームの時間構造が、SeaQuest実験にとっては重要な要素である。即ち、19nsごとのRFバケットとよばれるパルス構造をもっているが、それに約4万個の陽子が含まれており、その数が一定で安定して供給されることが重要である。SeaQuest実験の初期には陽子数が不安定で、陽子数が極端の大きい場合にミューオン対の偶発的同時計測が起こる、ということがしばしばあった。しかし、加速器グループの対策により、この問題がたいへん改善したので、現在は安定したデータ取得が可能になっている。SeaQuest実験にもビーム強度モニターを導入し、加速器グループと一緒に改良の作業をしてきた。その成果が出たといえる。 SeaQuestからの物理の成果は、前述のように平成25年度に取得したデータの解析結果を日本物理学会年次大会とアメリカ物理学会の大会で発表した。したがって、達成度は、概ね順調に進展している、という評価に該当する。
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今後の研究の推進方策 |
現在、3年間にわたる長期ビームタイムの最中であり、データの統計量を上げて、データ解析も同時にすすめる。成果は国際会などで順次発表し、論文としても発表する。実験の最適な条件の探索はすでに終わっており、現在の状態で安定したデータ取得を続けるのが当面の目標である。その際、磁気スペクトロメータにおけるドリフト・チェンバーの検出効率を95%以上に維持していくことが大切であり、日本グループはそのために中心的な役割を今後も果たしていく。 並行して行うデータ解析では、ドレル・ヤン過程のミューオン対のトラッキングを行うのだが、そのアルゴリズムを常に改良し、精度・速度を上げていくことが重要である。トラッキングの精度の向上により、偶発的同時計測を抑えて正しいミューオン対を選ぶことができるようになるので、データ解析の本質にかかわる要素である。日本グループはドリフト・チェンバーのトラッキングに取り組んでいるので、今後もこの点について貢献をしていく予定である。
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