研究課題/領域番号 |
25247047
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
足立 智 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10221722)
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研究期間 (年度) |
2013-05-31 – 2017-03-31
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キーワード | スピンエンジニアリング / 量子ナノ構造 / 核スピン / 電子スピン / 正孔スピン |
研究概要 |
固体での局在電子スピンを利用した量子情報処理研究において,電子スピン-核スピン間相互作用の理解と制御が不可欠であることが分かってきた.本研究では,これまでの光誘起核スピン分極研究の成果をさらに発展させ,単一量子リング・ドットでの核スピンエンジニアリングを確立し,長期目標としての量子メモリへの発展に貢献することを目的としている. 本年度は,(1)超微細相互作用支援光学遷移を利用した核スピン光ポンピング技術の研究および(2)正孔スピンへの核スピン分極の影響の定量的評価を行った.(1)(2)の実験的な研究部分では,狭い電子または正孔のゼーマン分裂幅に比較して,十分狭いスペクトル幅を持つ単一周波数CW波長可変レーザーが不可欠であり,本科研費により新規購入した.しかし納品後に判明した不備により検収が大幅に遅れ,(1), (2)ともに現状では十分な実験データの蓄積は行えておらず,H26年度も引き続き実験的研究を行う.そのためH25年度においては,(2)は主に理論計算により研究を行い,電子スピンへの核スピン分極ゆらぎの実験データとの比較及び正孔スピンへの核スピン分極ゆらぎの効果を計算により評価した.これらの結果は学術論文(J. Appl. Phys. 113, 203511 (2013))に掲載されるとともに,国際会議で口頭発表し,同分野の研究者から注目された.またH27年度に予定しているg因子制御の予備実験として(3)核磁場を利用した電子・正孔g因子の個別評価と発光の偏光状態測定を重点的に行った.多数の単一量子リングにおいて,励起子g因子と正孔g因子に強い相関を見出し,電子・正孔のg因子を独立して評価しただけでなく正孔g因子について価電子帯のバンド混合の影響との関連まで含めて議論した.この成果はApplied Physics Express (APEX)に掲載可となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度購入したCW単一周波数波長可変レーザーは,研究目的の仕様を満たすが,検収が遅れ使用できるようになったのが最近であった.このため狭い電位ゼーマン分裂準位の片方だけを選択的に励起する実験において十分なデータを蓄積できていないが,計測系を改善しつつ同時進行で実験を行う予定であり,H26年度は十分な実験ができると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
H25年度に引き続き,高核スピン分極形成技術および正孔スピン光ポンピング技術を研究するとともに,価電子帯混合を利用した正孔スピンデコヒーレンスの直接評価を行う.正孔スピンと核スピンとの相互作用(双極子型超微細相互作用)は電子との相互作用(接触型超微細相互作用)に比べ,結合定数が1 ケタ以上小さく,無視できるほど弱いと信じられてきたが,近年実はそうではないという報告が在る[PRL 102, 146601 (2009)].そこでは非常に大きな価電子帯混合(VBM) を有するQD アンサンブルを用いており,歪による重い正孔と軽い正孔の混合が大きい程,正孔スピンへの核磁場揺らぎの影響が大きいと結論しているが,その点については実験的には実証されていない.これまで用いてきたInAlAs 量子ドットでは上記の価電子帯混合の程度は同一試料であればどの量子ドットもほぼ同じであったが,昨年度に測定したInAs量子リングでは同一試料中の50個程度の価電子帯混合は広く分布しており,2つの興味ある傾向が見られた.すなわち同一試料内で重い正孔への軽い正孔の混合度合いが系統的に変化しているため,これを用いてVBM と正孔スピンコヒーレンスへの核磁場揺らぎの効果を定量的に評価する.同時にこの傾向について,理論研究家(台湾国立交通大学 Shun-Jen Cheng教授)と協力してその物理を解明する予定であり,すでに実験データは送っており初期の理論計算結果を得ている.
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