研究課題
基盤研究(A)
本年度は、半導体表面超構造の超伝導現象を、電気伝導測定と低温走査トンネル顕微鏡(STM)測定によって研究した。まず、シリコン表面上のインジウム原子層について詳細な電気伝導測定を行った。これまでの測定では超伝導転移温度Tcは2.6~3.0Kとばらつきがあり、他のグループのSTM測定で報告されていた3.12Kから隔たりがあったが、クライオスタットの改造によってほぼ同じTcが得られるようになり、その差はほぼ解消した。この原因は室温から試料への熱放射の寄与が残っていたことである。極低温・超高真空環境での精密測定には、十分な注意が必要であることがわかった。次に有機分子の吸着が超伝導に与える影響を調べた。銅フタロシアニンを一層程度蒸着し、自己組織化配列させたところ、Tcは最初上昇し、その後二層目から低下する振る舞いが観測された。これは最初、分子からインジウム原子層へのキャリアドーピングによってTcが上昇し、その後二層目から分子にスピンが残って超伝導を抑制したと考えられる。同様の傾向は、低温STMを用いた超伝導ギャップの測定によっても得られた。また、最低温度1K以下、最大磁場5Tの条件下で電気伝導測定が可能な、新型の超高真空対応クライオスタットを設計し、建設した。これにより、特に強い平行磁場下での興味深い電子輸送現象を調べることが可能になる。低温STMの実験では、磁場を印可することで明瞭な渦糸状態が観測された。特に、原子ステップにトラップされた渦糸は特異な形状をしており、中心部で超伝導が復活する傾向が見られた。これはジョセフソン渦糸状態の直接観察であり、原子ステップがジョセフソン接合であることの直接的な証拠である。
2: おおむね順調に進展している
電気伝導測定用の超高真空クライオスタットについて問題を解決し、より正確な温度依存性が測定できるようになった。このため、有機分子の吸着によるTcの小さな変化でも、実験で検出できるようになった。また、スピンが残った状態で磁性有機分子を吸着できることがわかった。これにより今後、超伝導と磁性との興味深い競合に関して調べることが可能になる。また、ジョセフソン渦糸状態の直接観察に初めて成功した。これは研究開始前には予期しなかった成果である。
今年度に導入した新型超高真空対応クライオスタットの整備を進め、極低温・強磁場の環境下で電気伝導測定を行う。特に、平行磁場における超伝導特性の変化について、スピン軌道相互作用の観点から調べる。また、磁性有機分子がもつスピンが超伝導に与える影響や、分子・原子からのキャリアドーピングの影響についても、今後研究を進める。
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