研究実績の概要 |
これまでに導入した新型超高真空対応クライオスタットの整備を進めた。新型クライオスタットは従来の測定装置から独立しているため、試料表面を汚染することなく両装置間で試料を搬送することが必要である。この目的のため、新たに小型可動式超高真空チャンバーを導入し、その動作を確認した。また研究計画で提案した、半導体表面超構造物質の極低温(0.9K)・強磁場(5T)での測定を行うことに成功した。面直磁場の下では超伝導が破壊される。シリコン表面上のインジウム原子層(Si(111)-(R7xR3)-In)に対する臨界磁場は約0.3Tであった。さらに、同じ試料で、ゼロ磁場の状態で0.9Kまで試料の電流-電圧特性を測ったところ、3.0Kで超伝導転移を確認し、さらに2.2KでKTB転移と思われる状態に変化した。今後、この相転移についてより詳細な解析を行う予定である。また、面直方向だけでなく、面内方向の磁場についてもその影響を調べていく。この試料系は完全な2次元性をもつため、面内磁場によってさまざまな特異な現象が観測されることが期待できる。 さらに、この系に対するフタロシアニン分子吸着・配列の影響を引き続き調査した。電子輸送測定、走査トンネル顕微鏡、X線磁気円二色性、第一原理計算などの手法を総合的に駆使し、その全貌を明らかにすることに成功した。三種類のフタロシアニン分子(CuPc, FePc, MnPc)は、吸着後もその中心に配位した金属原子のd軌道にスピンを保持し、さらに中心金属原子の違いによってインジウム原子層との相互作用の強さが異なることが明らかになった。また、いずれの分子に対してもインジウム原子層から1-2電子程度の電荷移動が存在し、インジウム原子層はホールドープされていることがわかった。これが、CuPc吸着ではTcが上昇し、MnPc吸着ではTcが強く抑制された原因であると考えられる。
|