研究課題
物質の性質を担う電子は,フェルミ面直下の価電子であり,遷移金属の3d,4dあるいは希土類の4f電子である.これらの電子は様々な物質の条件によって状態が変化し,秩序状態を形成する.これらの電子の秩序を非破壊的にかつ直接観測するためには,共鳴X線回折が最も適している.特に3d遷移金属,希土類の4f電子の価電子帯にアクセスするためには,それぞれ,L2,3吸収端,M5吸収端のエネルギーを用いて,共鳴X線回折を行う必要がある.このエネルギーを持つX線は,通常の結晶構造解析に用いられる硬X線より低エネルギーの軟X線となる.このためにX線回折は,超高真空チャンバー内で行うなどの制約があるが,価電子帯の秩序状態を観察するという点で大きなメリットがある.21世紀初頭から,世界で多くの研究者が軟X線回折を用いて研究を行っているが,我々は特に偏光依存性について注目している.特に円偏光X線を使って,結晶カイラリティ,磁気カイラリティの研究を行ってきた.この科研費プロジェクトでは,サブマイクロメートルの集光ビームの実現化とそれを用いた研究を推進している.このような集光化によって,様々な物質の秩序状態の外部環境による変化をドメイン変化として観察する事ができる.特に円偏光X線を使うと,右左のカイラリティを判別することができるため,磁場,電場,あるいはレーザ光によるカイラリティドメインの変化および制御について詳細に観察する事ができる.昨年度は,主にレーザービーム,磁場,電場などによる六方晶フェライトの磁気カイラリティ変化について詳細な研究を行った.
2: おおむね順調に進展している
ゾーンプレートによる集光サイズの最適化がまだ終わっていない.さらに調整が必要である.しかし,集光ビームは,順調に使用することが可能である.昨年度は,磁場,電場の導入による六方晶フェライトの磁気カイラリティドメインの変化について詳細な研究を行った.また,昨年度は円偏光可視光レーザを用いて,逆ファラデー効果の研究を重点的に行った.また,昨年度の研究成果について,論文発表2件,口頭発表を6件行っている.
昨年度の研究をさらに継続する.ナノメートル集光を用いた様々な実験を実施する.特に,反強磁性構造,強磁性構造,磁気カイラル,結晶カイラルのドメイン観察とその制御を行う.マルチドメインの形成には,相転移事象の性質に強く作用し,その制御は,強電子相関物質を理解する上で非常に重要である.それらの現象を制御するために,超伝導磁石,高電圧印加装置,可視光レーザビームを導入してきた.特にレーザビームを導入は,光ドープによる物性制御という観点で,非常に重要かつ興味深い.今年度は,本研究課題の最終年度に当たるため,これらの装置の高度化を実施する.磁気ドメイン構造の観察および制御をさらに推進する.
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
Physical Review B
巻: 93 ページ: 144116
10.1103/PhysRevB.93.144116
巻: 92 ページ: 094304
10.1103/PhysRevB.92.094304