研究課題
従来、強磁性と超伝導は相容れない現象だと考えられてきた。強磁性の強い内部磁場が超伝導電子対を破壊してしまうからである。しかし、近年ウラン化合物において強磁性と超伝導が微視的に共存する系が見つかり、新たな超伝導発現機構が発現しているとして注目を集めている。代表的な物質はUGe2、URhGe、UCoGeである。この内、URhGeは研究代表者が発見した強磁性超伝導体である。本研究課題は、1. アクチノイド化合物における新奇強磁性超伝導体の発見、2.純良単結晶育成を行ない、磁場誘起超伝導を含む極限環境下の量子臨界現象と強磁性超伝導に絡む新現象の探索を目的としている。本年度は、URhGe、UCoGeの磁場誘起(磁場強化)型超伝導の発現機構に迫るために、とくに強磁性スピンゆらぎとフェルミ面のゆらぎに着目した実験を行った。具体的にはURhGe、UCoGeの強磁場下の磁気抵抗測定、熱電能測定を行ない、強磁性転移温度抑制され、強磁性ゆらぎが発達しているところでのフェルミ面の変化を詳細に調べた。熱電能測定からは、熱流方向に依存する大きな異常がスピン再配向磁場で観測された。また20T以上の強磁場で熱電能において量子振動効果の観測に成功した。観測された振動数は小さいが、磁場増大とともに振動数が大きく変化しており、リフシッツ転移を含むフェルミ面の不安定性を反映しているものと考えられる。またシュブニコフ・ドハース効果の観測にも成功し、熱電能測定と矛盾しない結果が得られた。本研究課題の予算で導入したヘリウム再凝縮装置が順調に稼働しており、液体ヘリウムの継ぎ足しが必要のない、ほぼ無冷媒の希釈冷凍機の実験環境が整った。また、X線CCDカメラを導入し、微小単結晶試料の方位出しが迅速かつ正確にできるようになった。
2: おおむね順調に進展している
URhGe、UCoGeの純良単結晶育成に成功し、当初の予定通り磁場誘起超伝導および磁場誘起現象にからむ強磁性ゆらぎの研究が本格的にできるようになった。とくに強磁性スピンゆらぎについては、比熱、電気抵抗、NMRなどさまざまな実験手法により研究を行ない、その全貌があきらかになりつつある。パウリリミットを越える大きな上部臨界磁場については、強磁性スピンゆらぎ以外にフェルミ面の不安定性もきわめて重要な役割を果たす。この点に焦点を当てた熱電能測定、量子振動効果測定を20Tを越える強磁場中で実験を行った。磁場中でフェルミ面が大きく変化していることが分かり、今後ドハース・ファンアルフェン効果、シュブニコフ・ドハース効果などの実験手段を用いてより詳細な実験が必要なことが分かった。
上述のドハース効果を測定する上で、純良単結晶育成がきわめて重要である。また、イジング性の強い異方性を伴う物質であるので、結晶内部にマルチドメインのない均一な試料が重要である。本年度購入したX線CCDカメラにより、試料の方位出しが効率的にできるようになり、 従来の10倍以上の速度で行えるようになった。したがって、きわめて純良な単結晶が得られるものと期待できる。また、強磁性量子臨界現象をより詳細に調べるために、chemical pressureによりチューンされた物質群の研究も予定している。
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すべて 雑誌論文 (15件) (うち国際共著 1件、 査読あり 15件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 7件)
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