研究課題
異種物理系間の量子インターフェースの開発に向けた研究および多体量子系における理論や操作の探求を目的とする。まず異種物理系間の量子インターフェースにおいては、量子通信で用いられる光の波長領域である通信波長と量子メモリーで用いられる可視・近赤外波長間の波長変換が重要である。H25年度は通信波長と近赤外光の変換を完成させたが、今年度は通信波長とダイヤモンドNVセンターの波長(可視)間の変換実験に初めて成功した[Opt.Exp. 出版]。近赤外の方は実際のルビジウム原子を用いる布石としてルビジウム原子のトラッピング系を立ち上げ、発光測定に至った。また可視近赤外領域で2003年に行われた「エンタングルメント蒸留」が通信波長帯では実現していなかった。これは背景光による困難のためである。我々は詳細な原因分析により今年度実証実験にこぎつけた。来年度の論文出版に向けて今年度プレプリントを公開した。これらの実験では超伝導光子検出器を用いているが、検出器と光の結合効率を上げる必要がある。そのための実験の論文を今年度出版した[IEEE Trans. Appl. Supercon.]。量子暗号においてユーザーの量子インターフェースが攻撃される危険が最近指摘されており、これを避けるユーザーの量子測定に依存しない量子暗号が注目されている。我々は新奇な方法を提案し、理論提案の論文を出版した[Sci. Rep.]。次に多体量子系における理論として、シュウィンガー機構による対生成を、2次元系を対象として「量子弱値」で説明することに成功し論文を発表した[New J. Phys.]。多体量子系で重要な分配関数を計算することは一般に計算困難である。その近似計算を行うアルゴリズムを提案し論文を出版した[PRA]。また量子トモグラフィー効率を最適化する方法{PRA}およびスピン系でも提案しプレプリントを公開した。
1: 当初の計画以上に進展している
今年度当初、計画として3点を挙げた。まず「(1)ラマン散乱等に起因する背景光の少ない波長を探索すべく背景光の波長依存性を測定する実験系を構築する」であるが、研究実績の概要に書いた通り、それを上回って通信波長帯でエンタングルメント蒸留が困難だった原因分析にこぎつけ、実証実験の論文プレプリントpublishまで至った。もう一点、同様に背景光の問題でルビジウム波長より不利なダイヤモンドNVセンターの波長での実験にも成功し、査読付き論文の出版に至った。次に「(2)冷却ルビジウム原子系の検討および構築を行う」であるが、これも研究実績の概要に書いた通り、それを上回ってトラッピングを達成し発光測定に至った。最後に「(3)多体量子状態の生成方法を探求し光子系を用いた実証実験を行う」であるが、これは遅れている。(しかし多体量子状態の分配関数計算アルゴリズムの理論のPRA論文の出版は行った。)以上のように、当初計画より上回っている項目が3件、遅れているのが1件で、総合的に「上回っている」と自己判定した。
最終年度であるH27年度は以下のように進める。異種物理系間の量子インターフェース関連では今年度立ち上げたトラップしたルビジウム原子から発光する光子を用いて量子通信実験を行う。通信波長帯におけるエンタングルメント蒸留実験については査読付き論文誌での出版をめざす。測定無依存量子暗号については、これまでの「無限長鍵」を仮定した理論を一歩現実に即したものに進め、「有限長鍵」の理論を提唱する。シュウィンガー機構による対生成現象を「量子弱値」で説明する研究については、今年度行った2次元系での理論を進めて他次元(1次元や3次元)へ、また粒子の質量もゼロと有限の両方の場合を扱う。多体量子系を用いた量子情報処理については、ブラインド量子計算(量子計算をしたいが量子コンピューターを持っていないユーザーが量子コンピューターを持っているサーバー企業にクラウド的に依頼するにあたって、解きたい問題や入力データがわからないように依頼する)の理論研究を進める。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 6件、 謝辞記載あり 6件) 学会発表 (33件) (うち招待講演 7件) 備考 (2件)
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