研究課題/領域番号 |
25247069
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
新倉 弘倫 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (10500598)
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研究分担者 |
森下 亨 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 准教授 (20313405)
岩倉 いずみ 神奈川大学, 工学部, 准教授 (40517083)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アト秒高次高調波 / トンネルイオン化過程 / 数サイクルパルス / 極端紫外光 / 分子軌道イメージング |
研究実績の概要 |
1. 新規アト秒分光装置系の開発:本研究の目的である、多チャンネル過程が関与するトンネルイオン化過程についてアト秒時間精度で測定を行うため、新たにアト秒時間分解・角度分解光電子分光装置を開発した。本装置は極端紫外領域のアト秒高次高調波と高強度の赤外数サイクルレーザーパルスを位相を安定化させて組み合わせる装置と、それらのパルスの気相試料への照射によって生成した光電子の運動量を画像観測する装置からなる。本装置は、新たに開発した光学系により、安定して数アト秒の時間分解能でアト秒高次高調波と赤外パルスの時間差を変えることが可能である。本装置の開発について、論文を作成中である。 2. 希ガスからのアト秒時間分解光電子運動量分光法による測定:次に、開発した装置系を用いて、様々な希ガスや気相分子についてそのアト秒イオン化ダイナミックスの測定を行った。特定の希ガスについて、高強度の赤外光をアト秒高次高調波パルスと共に照射した場合、従来では観測されていない特異的な角度分布を持つ光電子放出過程が生じることがわかった。この実験結果を国際学会で発表し、さらに、多チャンネルイオン化の観点からも解析を行った。論文を作成中である。 3. 理論計算の発展:トンネルイオン化過程の多電子系の取り扱いとして、弱電場漸近理論の高次項に対する理論の理論の定式化をさらにすすめ、 計算コードを開発してヘリウム・水素分子などの2電子系についての計算を進めた。また、2原子分子のトンネルイオン化についての弱電場漸近理論の主要項の計算を行った。これらの結果を学術論文・国際会議等で発表した。さらに高強度レーザー電場と極端紫外光を組み合わせた場合のイオン化過程の理論的な定式化と計算を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調である。前述のように新規に導入したキャリアエンベロープ位相安定化高強度レーザーシステムを用いた時間分解光電子分光装置が稼働し、いくつかの興味深い実験データを得ることに成功している。また理論計算においても、理論の定式化や計算結果についてのまとめを順調に発表している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度まで、新規レーザーシステムの導入・アト秒測定装置の構築およびそれらを用いた希ガス原子についてのプライマリーな結果を得た。また理論計算の基礎的な構築を行った。そこで本年度は、研究結果の総括に向けて実験結果の解析と関連する実験を行う。 1. アト秒時間分解光電子スペクトルの解析と理論モデル構築:本年度に測定したアト秒時間分解運動量スペクトルは、従来には観測されなかった特徴的な光電子の角度分布を持っている。これはアト秒高次高調波と組み合わせている赤外レーザー電場の強度が多光子遷移やトンネルイオン化過程に近い強度を持つことにより生じていると考えられ、従来の弱い電場による1光子遷移による物理的モデルによる取り扱いとは異なる。そこでこれらの新規な過程の定式化を行い、特に多チャンネルイオン化過程が段階的に起こっている可能性も含めて検討し、論文を作成する。 2.多チャンネルイオン化間の相対的なアト秒時間差(位相差)の測定:本研究で開発した装置は、数アト秒の時間分解能で、複数のイオン化チャンネル間のイオン化における位相差(時間差)を角度分解の情報も含めて測定することが可能である。そこで時間分解の多チャンネルイオン化過程の解明に向けて、希ガスおよび分子に関して、測定と理論計算を行い、論文を作成する。 3. 多原子分子への応用:また、多原子分子の光化学反応に際して変化する分子軌道の測定に際して、異なる準位からのイオン化過程がどのように影響するかについて実験的に調べる。本年度はこれらのことを統合し、研究課題の総括を行う。
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