研究課題/領域番号 |
25247070
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
今井 正幸 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60251485)
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研究分担者 |
佐久間 由香 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40630801)
浦上 直人 山口大学, 理工学研究科, 准教授 (50314795)
鈴木 健太郎 神奈川大学, 理学部, 外部資金雇用研究者 (60512324)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | プロトセル / ベシクル / 化学刺激 / 膜分子合成 / 分子シミュレーション |
研究概要 |
本基盤研究では、ソフトマター分子集合体がプロトセルと呼ばれる最小限の生命機能を有するシステムへと発展する機構の解明を目指している。平成25年度は、1)化学刺激による機能発現、2)膜分子合成系と結合したベシクルの自己生産機構の解明、を中心に研究を進めた。 1)化学刺激による機能発現では、ある種のイオンを局所的に吹きかけることにより、そのイオン種の濃度勾配により、その方向に向かって進む現象 chemophoresis を世界で初めて見出した。この chemophoreisi はプロトセルのもつ基本的な性質、自己駆動、の最も単純な機構として注目されているものであり、膜分子と化学種の相互作用が機能を生み出す典型例だと考えられる。また、この様な化学刺激が自走性のみならず、膜変形をも生み出す事が明らかとなり、本研究の目的である化学刺激による機能発現に向かって、大きな一歩を踏み出せた。 2)膜分子合成系と結合したベシクルの自己生産機構の解明では、リン脂質の両疎水部末端にイミン結合により親水基を導入したボラ型両親媒性分子を前駆体とし、イミン結合の加水分解を経て、安定なベシクルを与え得る新規リン脂質化合物の合成を目標に研究を行った。珪藻土に吸着させたグリセロホスホコリンを用いてホモ置換型リン脂質が合成できることを、モデル化合物により確認した。これにより、分子供給系と連動して自己生産するベシクルの開発に大きな一歩となった。さらに、その自己生産機構を明らかにする目的で、分子シュミレーションの方からのアプローチも進めた。球状ベシクルの外部に配置した脂質分子は球状ベシクルに取り込まれ、ベシクルの形状は球状から棒状、さらには2つの球状ベシクルが結合した形状を確認することができた。今後は、球ベシクルの分裂を再現するパラメーターの探索に務める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、当初の目的であった、化学刺激によりベシクルに機能をもたらす研究では、特定のイオン種によるベシクルの自走現象を実験的に明らかにし、その機構を説明するモデルを提案できた事、さらには化学刺激により自己駆動のみではなく、膜変形も彦起こせる事を見出した事は想定以上の進歩であった。更に、膜分子合成系と結合したベシクルの自己生産機構の解明についても、その鍵となる膜分子合成系の確立に向けてある程度目処がついた事も大きな前進である。また、実験結果と自己生産を結びつけるシミュレーション手法の確立に向けても、問題点の抽出等、今後の展望が明らかになった点も大きい。これらの結果を踏まえると、全体としておおむね順調に推移しており、その一部には想定以上の展開をしている研究もある。
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今後の研究の推進方策 |
今後もまずは、上記の1)化学刺激による機能発現、2)膜分子合成系と結合したベシクルの自己生産機構の解明、を中心に研究を進め。ある程度見通しができたところで、統合ベシクルへと研究を進める。1)と2)についての当面の研究推進の方策は以下の通りである。 化学刺激に対するベシクル応答 化学刺激に対するベシクルの応答を系統的に調べるとともに、イオン種の脂質への結合による面積差の増減を基にした面積差弾性エネルギーモデルで解析する。更にその結果を再現する為の分子シミュレーション手法の開発を行なう。自発曲率の異なる2種類の脂質分子をモデル化し、代表的な機能である、ベシクルの分裂過程をシミュレーションにより調べる。脂質分子間に働く相互作用パラメータを変化させることで、化学刺激によるベシクルの形状変化を再現する。今年度は、脂質分子の自発曲率の変化、脂質1分子が占める面積の変化、さらには、外部からの脂質分子の供給に対するベシクルの形状変化におけるベシクルの形状変化のシミュレーションを行う。そして、ベシクルの内膜と外膜における2種類の脂質分子濃度変化とベシクルの形状変化との関係性を調べることで、ベシクルの分裂メカニズムを明らかにする。 膜分子合成系と結合したベシクルの自己生産機構の解明 化学反応の感受性の高いリン脂質を合成し、分子合成系と結合した自己生産系を確立するのが目的である。昨年度に構築した、疎水部末端に機能性置換基を有するリン脂質を、珪藻土に吸着させたグリセロホスホコリンを用いて合成する方法により、リン脂質型ベシクル自己生産系を構築に必要な、疎水部末端にホルミル基を有するリン脂質を合成し、そのベシクル系性能を確認する。さらに、この分子の前駆体となるボラ型両親媒性分子の合成を行う。
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