研究課題
アモルファス氷は星間分子雲や太陽系外縁部の主要固体物質で,その生成機構,構造,物性の理解は,太陽系物質や彗星の進化を理解する上で決定的に重要である.しかし,実験的な困難さゆえ,生成機構や構造はこれまでほとんど理解されていない.そこで,本研究計画では,透過型電子顕微鏡(TEM)の鏡体内で制御された条件(温度,凝縮速度,基板の種類・構造)で氷を作製し,かつ種々のプロセス(紫外線・イオン照射等)を与えることのできる極低温超高真空透過型電子顕微鏡を開発する.このために,現有の超高真空TEMに,本研究で作製するパルスチューブ型冷凍機を用いた冷却システムを取り付け,温度可変(10-300K)で長時間の冷却が可能なシステムとする.パルスチューブ型He冷凍機はGM型He冷凍機と比較して振動は1/10程度と小さいが,それでも数μm程度の振動があるので,この振動をTEMホルダーに伝えないための工夫を施す.本年度は,残っている主要部品の製作を行った.パルスチューブ型He冷凍機と一段目の超高真空チャンバー間に入れる特殊ベローズおよび二段目の超高真空チャンバーとTEMホルダー間の特殊ベローズ(真空に排気しても伸縮が起こらない)を設計・製作した.また,一段目の超高真空チャンバーにイオンポンプや真空バルブ,真空計(本年度購入)を取り付け,真空排気が可能となった.残っている部品は,パルスチューブ型He冷凍機先端とTEMホルダー中の高純度無酸素銅棒をつなぐ部品である.この部品は,パルスチューブ型He冷凍機先端とTEMホルダー中の高純度無酸素銅棒間を電気的に絶縁するいっぽうで,熱伝導をよくし,かつ振動を遮断するという,本研究の心臓部に相当する部品である.このために,超高純度無酸素銅極細線(特注品を購入)およびサファイヤ(低温での熱伝導率は大きい)を用いて電気的絶縁をとろうとしているが,これらの部品の接続がうまくいっていない.
2: おおむね順調に進展している
基本的研究計画は,交付申請書に記載した通り,おおむね実施できた.個々の部品の製作も大部分の部品で終了した.しかし,一部ながら,予定通りに進まない点もあった.除振のために二段目銅ブロックとTEMホルダーをつなぐ「極細金属線を多数束ね,熱伝導を極力保ったままで除振を行う」は,超高純度(99.99998%)で細い(直径0.05mm程度)の銅線と超高純度無酸素銅棒,および超高純度無酸素銅棒とサファイヤの接続がまだできていない.システム全体の製作に関しては,上記部品を除くと,「研究実績の概要」に記したとおり,ほぼ計画通りに物品(部品)の製作を完了した.以上のことから,研究は,ほぼ当初の計画通りに進展していると考えている.
基本的には,当初の計画通り研究を推進していくことで,研究目的を達成できると考えている.平成27年度には,早期にパルスチューブ型冷凍機とTEMホルダーをつなぐ極細超高純度銅線を多数束ねた高熱伝導線を完成させ,システム全体を組み立てる.その後,冷凍機による冷却試験をおこない,到達温度と振動を実際に計測する.到達温度が低い場合は銅線の数を増し,いっぽう,到達温度は十分低いが振動がある場合には,銅線の数を減らすなどの調整を行い,システム全体としての性能を上げていきたい.
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Journal of Physical Chemistry Letters
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http://www.lowtem.hokudai.ac.jp/astro/index.html