今年度は主に以下の点で進展があった。 (1) 光触媒活性のあるチタニアナノ粒子表面に吸着した水分子の振動モードを水分子層数の関数として赤外吸収分光により高感度に観測した。また、短パルス光(波長400 nm)で励起し、それによって誘起される電子の減衰挙動を赤外過渡吸収測定で明らかにし、この過渡吸収と振動モードと水分子被覆率依存性の詳細を解析することにより、第一層に強く吸着した水分子が有効に正孔を捕捉するということを初めて明らかにすることができた。(2) Ir(111)表面上にグラフェンを成長させ、グラフェンと金属表面の層間にCs原子を挿入したところ、可視域に強い吸収バンドを観測した。この吸収バンドはCsからグラフェンへの電荷注入により蓄積された電子のプラズモン吸収と帰属した。そこで、このバンドに共鳴する波長のフェムト秒パルスレーザー光をポンプ光とし、プローブ光の過渡吸収をポンプとプローブ光との遅延時間の関数で測定したところ、コヒーレントフォノンに由来する信号を観測した。第一原理計算によりこれらのフォノンモードはすべてグラフェンとCs原子の表面法線方向の振動であることが判明した。すなわち、プラズモンバンドを利用することにより、極めて高感度で表面振動モードを観測することに成功した。また、これらの振動モードとCs・グラフェン間の電荷移動が強く結合していることも明らかになった。(3)赤外・可視和周波振動分光を適用することにより、白金表面上の吸着した水分子の配向を明らかにすることができた。(4)バナジン酸ビスマスの単粒子を527 nmのナノ秒パルス光で一様に励起し、生成された正孔密度とその減衰挙動の空間分布を共焦点配置の顕微鏡により観察することに初めて成功した。 以上のように、単結晶表面、およびナノ粒子表面における吸着種の振動状態や電子状態を高感度で観測することができた。
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