研究課題/領域番号 |
25248009
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
竹内 佐年 独立行政法人理化学研究所, 田原分子分光研究室, 専任研究員 (50280582)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | フェムト秒 / ラマン分光 / 光受容タンパク質 / 水素結合 |
研究実績の概要 |
独自のフェムト秒ラマン分光を開発し、光受容蛋白質の初期分子ダイナミクスの解明をめざした研究を推進した。時間分解インパルシブラマン分光による研究では、可変形鏡を用いた分散補償光学系を製作し、ラマン励起光をフーリエ限界(6フェムト秒)まで圧縮した。これにより、すべての振動基音を時間領域で観測できることを確認した。この装置を用いてイエロープロテインの初期ダイナミクスを研究し、指紋領域の時間分解ラマンスペクトルを十分なSN比で取得した。また励起光によるコヒーレンス生成を避けるため、パルス幅250~300fsの励起光を用いることが最適であるとの結論に至った。実験の結果、この光受容蛋白質では光励起後に100fs弱の時定数で発色団周辺の水素結合構造変化が起こると結論した。また、最初の基底状態中間体であるI0状態のラマン信号の観測にも成功し、その詳細な振動構造を明らかにした。これにより、I0状態では発色団が捩れたシス型構造をもち、C=O基とタンパク主鎖との水素結合が保持されていることが分かった。これと並行して、発色団近傍のアミノ酸残基側の構造応答を研究するため、深紫外域誘導ラマン分光による研究も行った。芳香族アミノ酸残基の吸収に共鳴する条件で測定し、ダーク状態でのトリプトファンの信号を確認した。光励起状態の信号は予想以上に弱いため、検出法を含め検討している。 一方、発色団のすばやい電子緩和とそれに伴う構造ダイナミクスの解明をめざし、独自に開発した近赤外フェムト秒誘導ラマン分光による研究も進めた。超高速光異性化を起こすシアニン色素をテスト試料とし、誘導放出帯に共鳴するラマン励起光を用いて測定した結果、1600cm-1付近のバンドの重心振動数がラマン励起波長によって異なることを見出した。これにもとづき、S0/S1ポテンシャル近接領域近傍のS1分子の構造ダイナミクスを考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
時間分解インパルシブラマンを用いた研究では極限的に短いパルス光の発生に成功し、低波数~高波数のすべての振動をフェムト秒時間スケールで観測可能とした。これにより、イエロープロテインの水素結合変化や発色団骨格のねじれなど、光受容タンパク質の初期構造ダイナミクスを特徴付ける核運動の解明が大きく進んだと考えている。また、近赤外誘導ラマンによる研究ではラマン励起波長に依存したスペクトル変化が実際に観測され、これまで実験研究が行われてこなかったポテンシャル近接領域の分子ダイナミクスの解明に向けて、研究の手がかりが得られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
時間分解インパルシブラマンを用いたイエロープロテインの研究では、変異体に対する実験を行い、水素結合構造変化の具体的な描像を得る。これにより、光受容の初期過程において光吸収を生体信号に変換する精巧な分子メカニズムを考察し、その結果を論文にまとめる。アミノ酸残基の構造ダイナミクス解明をめざした深紫外誘導ラマンによる研究では、微弱な過渡信号を捉える高感度の測定が必要となっている。そこで、深紫外領域での時間領域ラマン分光による測定を検討する。
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