研究課題/領域番号 |
25248025
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
神戸 宣明 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60144432)
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研究期間 (年度) |
2013-05-31 – 2017-03-31
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キーワード | クロスカップリング反応 / 多成分反応 / アルキル化反応 / 遷移金属触媒 |
研究実績の概要 |
前年度の成果をもとに共役ジエンの分子変換反応に取り組んだ。その結果、ニッケル触媒を用いてブタジエン、フッ化アルキル、アリールグリニャール試薬との反応により、ブタジエンの二量化を伴ったアルキルアリール化反応が進行することを明らかにした。さらに、求電子剤としてフッ化アルキルに代えてパーフルオロアレーンを用いることにより同形式の反応が進行し、パーフルオロアリール基を導入する反応の開発に成功した。 同様の反応を、銅触媒存在下、アルキルグリニャール試薬を用いて行うと、ブタジエンにパーフルオロアリール基と水素もしくはアルキル基を導入する多成分反応が進行することも明らかにした。 一方、ニッケル触媒系にアルキルグリニャール試薬を適用すると、ブタジエンの二量化を伴ったパーフルオロアリール化反応により、1,7-オクタジエンが得られることを明らかにした。 さらに、クロスカップリング反応を利用したシクロプロパン骨格を有する長鎖脂肪酸類の合成を検討した。前年度に開発したシクロプロパンを有する合成素子を用いて種々の長さのアルキルグリニャール試薬およびブロモ化した脂肪酸との二段階のカップリング反応により、シクロプロパンを脂肪酸骨格の望む位置に選択的に導入することに成功した。また、不斉シクロプロパン化反応と組み合わせることにより、光学活性体の合成も達成した。 また、機能性共役分子ヘのアルキル鎖の導入によるバルク材料中での配向制御について前年度の成果をもとに、ピレンへのアルキル鎖の導入と発光特性への影響を調査した。その結果、アルキル鎖の長さにより固体状態における分子間相互作用の様式が変化し、特定の長さのアルキル鎖の場合には、固体状態においてもモノマー発光が選択的に生じることを明らかにした
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
炭素資源として利用価値の高い、ブタジエンを反応基質とする一連の官能基化手法の開発を達成した。すなわち、銅を触媒とすることにより、ブタジエンのアルキル化反応やパーフルオロアルキル化反応により、官能基化された末端オレフィンが得られる。さらに、触媒としてニッケルを用いることにより、同様の基質の組み合わせにおいて、ブタジエンの二量化を伴った反応が進行し、1,6-および1,7-オクタジエン骨格の構築と官能基化が一挙に進行することも併せて見出した。これらの成果は、本研究課題の中心的なテーマであるアルキル化反応において重要な成果である。さらに、アルキル化反応のみならず、機能性分子として期待されるポリフルオロアレーン類の合成手法の発見は、一連の分子変換反応が様々な求電子剤へと応用出来ることを示すものであり、今後の発展が期待出来る。 さらに、アルキル化反応を利用することにより、天然物、合成医薬品に広く見られるシクロプロパン環を有する脂肪酸類の合成手法を確立したことにより、アルキル化反応の合成化学的利用価値を示すとともに、さらなる応用研究への足掛かりを築くことが出来た。 アルキル化反応を基盤とする、機能性材料創出に向けた成果として、ピレンの様な発光特性を有するπ電子骨格に、アルキル鎖を導入し、その発光を制御することに成功した。分光学測定と結晶構造解析を組み合わせることにより、発光色の変化の理由が明らかになりつつある。本成果は、アルキル基導入手法が機能性分子の材料応用に必要な合成技術であることを示すものであり、適切なアルキル基の導入によるバルク材料の機能制御手法へとつながると期待出来る。 上記の様にクロスカップリング反応の応用研究および多成分反応に関して、計画当初の想定を超える多くの重要な結果が得られつつある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、飽和炭素骨格の簡便かつ効率的構築手法を開発する事により、有機合成化学、触媒化学、機能材料科学、生化学関連分野等の広い分野の発展に寄与する基礎的知見を得ると共に、応用分野の開拓を合わせて行うことを目指している。研究は順調に進行しており、最終年度に当たる平成28年度には、これまでの成果をもとに更なる発展研究へと展開する。また、上記の通り、申請当初は計画していなかったパーフルオロベンゼン類の炭素―フッ素結合の切断を伴った新規合成手法の開発に成功した。本成果は、従来のニッケルを用いるブタジエンの変換反応とは異なる機構で進行しているものと考えられるので、触媒活性種の単離・構造決定、反応機構研究に取り組み、ニッケル触媒反応の重要な知見を得ることを目指す。 また、パーフルオロアレーン類の分子変換反応の過程で、sp2炭素―フッ素結合の切断を伴った分子変換反応をいくつか見出した。平成28年度にはこれらの派生した研究課題にも取り組み、新たな研究分野を開拓する。 当初計画したアルキル化反応の研究は順調に進展している。最終年度には立体選択性の発現の可能性を探求し、アルキル基に特有の中心性不斉に由来する立体の制御手法へと展開する。 応用研究についても十分な進展が見られており、これまでに開発した合成手法を利活用し、有用化合物の合成に取り組む。また、π共役系分子へとアルキル基を導入し、固体状態における物性制御についても十分な知見が得られたことより、さらに研究を加速させ、一般性の高い方法論を構築することを目指す。
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