最終年度に当たる本年度は、これまでの研究成果をもとに、飽和炭化水素を基盤とした応用研究、ならびにこれまでに開発した触媒的アルキル化反応の反応機構研究に取り組んだ。 パイ共役系分子はその分子設計に基づく機能創出ならびに応用研究が精力的になされているが、実際の材料としては多くの場合固体状態で使用される。すなわち分子間相互作用のため溶液中における単分子の物性がそのまま材料としての機能に反映されない。そこで、アルキル鎖を導入することによりパイ共役系の機能を固体中において制御する手法の確立を目指し検討を行った。具体的にはピレンをモデル分子とし、鎖長の異なるアルキル鎖を系統的に導入し、固体状態におけるパッキング構造と光学特性の関連を検討した。その結果、固体状態においてもピレン1分子に由来する光学特性を発現すること成功した。また、第一原理計算手法を用いて固体中における電子移動効率を定量的に見積もる手法の開発にも取り組んだ。 これまでに開発したアルキルーアルキルカップリング反応を利活用することにより、長鎖アルキル鎖を有するイノシトールリン脂質の全合成を達成した。また、結核菌が産生する超長鎖脂肪酸であるミコール酸の合成研究に取り組み、その特徴的な部分構造であるシクロプロパンを含有する長鎖アルキル骨格の構築手法を確立した。 これまでアルキルーアルキルクロスカップリング反応に有効な触媒系を多数開発したが、その鍵中間体であるアニオン性錯体を単離することには成功していなかった。本研究では、その単離構造決定に取り組み、ニッケル/ブタジエン触媒系で想定していたアニオン性錯体の単離に初めて成功し、X線結晶構造解析により想定した分子構造であることを確認した。また、単離した錯体の反応性を精査することによりその化学的挙動を明らかにした。
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