研究課題/領域番号 |
25248027
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柴山 充弘 東京大学, 物性研究所, 教授 (00175390)
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研究分担者 |
藤井 健太 東京大学, 物性研究所, 助教 (20432883)
酒井 崇匡 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70456151)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | イオン液体 / イオンゲル / テトラペグゲル / プロトン性イオン液体 / 二酸化炭素分離 / 小角中性子散乱 / 動的光散乱 / 溶媒和 |
研究概要 |
水系とは全く異なるイオン液体中での4分岐ポリエチレングリコール(Tetra-PEG)のゲル反応機構を酸塩基反応と化学反応速度論に基づき体系化し、ゲル力学特性の自在制御法を確立した。また、生成したゲルに対して小角中性子散乱(SANS)、高角X線回折(WAXD)、動的光散乱(DLS)および時分割SANSにより網目構造・ダイナミクスを調べた。以下、それぞれについて、より詳しく述べる。 (1)イオン液体中でのTetra-PEGゲル化反応メカニズム解明とその精密制御:Tetra-PEGゲルの機械的強度は、ゲル化時間によって劇的に変化する。水系では、①pHによってNH2基の活性を制御することで、ゲル化速度を自由に制御できること②活性なNH2基の割合が酸塩基平衡によって決定されること、が明らかになっている。しかしながら、水中とは異なり、一般的な非水系IL中には解離性のプロトンが存在しないため、pHによる反応制御が不可能であった。そこで、カチオン内に解離性のプロトンを持つ、溶媒と類似構造のプロトン性イオン液体をプロトン供与体として溶媒中に加えることでNH2基の活性を制御し、ゲル化の反応性・時間を溶液反応論的に制御することに成功した。 (2) 種々の散乱法によるイオン液体中の高分子網目構造解析:イオンゲルの網目構造をSANSにより研究し、ハイドロゲルと類似の均一網目構造であることを確認した。また、微細構造をWAXDにより研究し、MDシミュレーションと組み合わせることで、Tetra-PEGのイオン液体への溶媒和構造についての詳細な解析を行った。さらに、時分割DLSによるゲル化過程における網目の形成過程の研究や、ゲル化時間を制御して調製したイオンゲルについて時分割SANS測定を行い、ゲル化過程における構造変化(網目サイズの変化)について詳細な解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ハイドロゲルと異なり、緩衝液によるプロトン濃度の制御ができないイオン液体系ではTetra-PEGの反応性、反応時間、力学特性等は溶媒種や溶液条件に強く依存し、特に、その反応時間はイオンゲルの材料展開における薄膜化過程において重要な因子である。典型的な非水系イオン液体であるイミダゾリウム型イオン液体を溶媒とした場合、混合からゲル化までの時間は1分程度と極端に短く、イオンゲルの成型や薄膜化は困難を極め、Tetra-PEGのゲル化反応制御は困難であった。そこで、イオン液体中でのゲル化反応を溶液化学的(酸塩基平衡および反応速度論)に調べ、そのゲル化メカニズムを解明することを通じてゲル化時間の制御を行うことを目的とした系統的な研究を行った。その結果、解離性のプロトンを有するプロトン性イオン液体(1―エチルイミダゾリウムTFSA塩)を加え、溶液中のプロトン濃度を調節し、このイオン液体を含む媒体中で末端間交差反応を起こすことにより、Tetra-PEGイオンゲルを得た。一方で、このプロトン性イオン液体中におけるNH2末端の酸塩基性を評価するために、電位差滴定実験を行い、解離定数を評価し、この値を用いて、ゲル化反応の反応速度定数の決定を行った。その結果、ある高分子濃度・分子量・温度において、Tetra-PEGイオンゲルのゲル化反応はイオン液体中においても二次反応で記述できることがわかった。さらに、これらの知見をもとに、イオン液体系における緩衝剤を見いだし、Tetra-PEGイオンゲルを調製したところ、Tetra-PEGハイドロゲルと同レベルの高強度イオンゲルの作成に成功した。 その他、Tetra-PEGイオンゲル薄膜を用いた二酸化炭素分離特性実験を行い、優れた分離性能を持つことを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)イオン液体中のTetra-PEGのゲル化反応を酸塩基平衡に基づいて研究し、解離性プロトンがないイオン液体中で中性分子・イオンが水中とは全く異なる酸・塩基性を示すことを明らかにした。その知見に基づいて、イオン液体中のプロトン濃度の制御法の確立に成功し、ゲル化反応制御の重要な要素の一つであるNH2末の活性の制御に成功した。以上のゲル化反応における研究を反応速度論に拡張し、ゲル化反応機構をより詳細に解析することで、イオンゲル薄膜の作成に最適なゲル化条件を求める。 (2)これまでの研究の成果を用いたTetra-PEGイオンゲルの高強度化により、5 wt%という低ポリマー濃度にもかかわらず、厚さ約100 μmの薄膜に加工しても破断しないイオンゲル膜の作成に成功した。このイオン膜に対し、顕微動的光散乱(当研究室開発)により、ゲル薄膜のダイナミクスの研究を行い、ゲル網目の評価をおこなう。一方、得られたイオンゲル分離膜を用いてN2/CO2混合ガスからCO2成分の分離を行い、その分離能を分離係数として定量的に評価する。分離能のイオン液体種依存性やゲルの膜厚・強度依存性を検討し、従来材料をもちいた分離システムとの比較を行う。 (3)本研究で得られるTetra-PEGイオンゲルのCO2分離・吸収挙動をより一般的な知見に繋げるため、CO2吸収によるイオンゲルの構造変化(網目構造及び溶媒和構造の変化)を、静的光散乱・小角中性子散乱・広角X線散乱(高エネルギーX線散乱)実験・MDシミュレーションという構造化学的手法を用いて明らかにする。この実験は、大型放射光施設(SPring-8・HANARO)を用いて行う。
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