研究課題/領域番号 |
25249018
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
谷下 一夫 早稲田大学, ナノ理工学研究機構, 上級研究員(研究院教授) (10101776)
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研究分担者 |
須藤 亮 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (20407141)
関口 哲志 早稲田大学, ナノ理工学研究機構, 主任研究員(研究院准教授) (70424819)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 生物・生体工学 / 熱工学 / 再生医学 / 細胞・組織 / マイクロ・ナノデバイス |
研究実績の概要 |
26年度では、3次元血管網の構築と肝臓組織内の胆管網の形成に関して種々の実験を行い、組織形成に関わる物質輸送の役割に関して検討を行った。特に、幹細胞、肝細胞、血管内皮細胞、星細胞から分泌される増殖因子が近傍の細胞に輸送され、組織形成に至る仕組みに対して実験的なアプローチを行った。1.マイクロ流路による組織形成 2.足場の硬さによる血管形成誘導の制御 3.胆管と毛細胆管の結合 4.計算機シミュレーションによるアプローチ そこで、得られた研究実績で重要な点は以下の通りである。マイクロ流路内で、上皮細胞との共培養により、血管内皮細胞による3次元血管網の構築を行った。マイクロ流路内で重要な要因は、間質流の影響によって3次元血管網の構築が促進される点である。間質流の影響として、2つの要因が考えられる。一つは、間質流による微小対流による流体力学的な刺激による影響である。二つ目は、間質流によるバイオトランスポート機構によるプロセスである。両者は相互に関連している要因であり、間質流による対流拡散機構の詳細を明らかにする必要がある。マイクロ流路デバイスの長所は、間質流による対流拡散機構を可視化する事が可能であるという点で、本研究のアプローチの主流となる。血管網形成で重要な点は、血管網を安定化させているペリサイトの存在である。そこで、マイクロ流路デバイスで、血管内皮細胞と間葉系幹細胞の共培養を行ったところ、ペリサイトを伴う毛細血管網が再構築された。血管基底側からVEGFを供給したところ、ゲル環境内にVEGFによる濃度勾配が形成され、血管新生が促進された。ゲル環境において、VEGFの濃度勾配を形成させる事がきる。血管新生モデルにおいて、増殖因子の濃度勾配の形成が、血管網形成のために重要な役割を果たしている事が分かった。正にバイオトランスポートが血管網形成において重要な要因である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マイクロ流路によるアプローチは、組織が形成される過程を詳細に観察可能であり、特に血管網の3次元的拡がりを詳しく観察する事が出来、培養皿による実験では把握出来ない部分を明らかにする事が出来た。これまでマイクロ流路デバイスによる実験では、内皮細胞(臍帯静脈内皮細胞)、間葉系幹細胞、肝細胞などの共培養が実現出来たこと、さらに増殖因子の濃度勾配の設定がマイクロ流路デバイスで可能であるため、従来指摘されている増殖因子の濃度勾配、すなわちバイオトランスポート機構の関わりを明らかにする事が可能である。これらの結果は、通常のin vivo実験や培養皿を中心とした実験では、明らかにする事が出来ないため、マイクロ流路デバイスの実験系として優位である事が明らかになった。特にペリサイトを伴う毛細血管の形成は、従来の研究では達成されていなかったが、本研究におけるマイクロ流路デバイスによるアプローチでペリサイトを伴う毛細血管が形成させる事ができた。さらに、マイクロ流路デバイスによって明らかになった毛細血管網形成のプロセスは、実際の生体内で生じている現象を再現している可能性があるので、生体内での状況を調べるツールとしても有望である。
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今後の研究の推進方策 |
再生組織中に3次元の血管網を構築するプロセスで、困難な点は、2種類以上の細胞の同時培養である。特に肝臓組織を再構築させるためには、多種類の細胞を同時培養が必須であるが、全体の組織形成を実現させる事が困難である。そこで、マイクロ流路ないでの、組織形成において多種細胞の同時培養の種々の条件を明らかににする事を目的に、さらなる実験を遂行する。マイクロ流路デバイスの長所は、微視的環境の正確な培養制御が可能であるという点である。特に、細胞周りの対流拡散機構を正確に把握する事が可能であるため、血管網を含む組織形成のモデルとして有利である。従来、再構築する組織を血管化する事が難しいが、その最大の理由は、微視的な環境の正確な制御が難しいという点である。さらに、マイクロ流路デバイスで達成された再形成組織は、マイクロスケールでは、形態と機能を再現できている。そのため、マイクロ流路デバイスは、組織再構築の微視的要因を解析するツールのみならず、微視的スケールでの組織が再現できるので、organs-on-chipという新しいライフサイエンスの領域を形成する事が可能であり、従来の移植医療や再生医療における手法とは全く異質の方法論によって、微小な組織を生体内に形成する事ができる。この延長線上では、革新的な医療が実用化する可能性があり、そのような革新的な医療を支える学術的根拠を本研究で明確にする事が重要と考える。このような点が、今後の推進方策で重要な部分となる。
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