研究課題/領域番号 |
25249024
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤井 輝夫 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (30251474)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | マイクロハイドローリクス / ソフトアクチュエータ / マイクロ流体デバイス |
研究実績の概要 |
本研究課題で提案するソフトアクチュエータ機構である「マイクロハイドローリクス」の基本動作原理を実証した。基本的なマイクロハイドローリックアクチュエータを設計・試作し、それを用いて基本動作原理の検証を行った。基本アクチュエータに圧力を印加すると、設計どおりに一方向へ大きくたわむことが実証された。アクチュエータ材料として2種類の柔軟シリコーン(東レ・ダウコーニング社製Silpot 184、信越シリコーン社製KE1603)を比較した。その結果、材料の力学的特性(応力-ひずみ特性)によって変形や変位量が大きく異なることが分かった。さらに、Silpot 184に比べてKE1603の方がアクチュエータ材料に適していることが分かった。KE1603で作製したアクチュエータを用いて、圧力とアクチュエータ先端部変位量の関係を測定すると、圧力60kPa程度から変形が始まり、圧力120kPaで25mmという大変形を実現できた。さらに、基本アクチュエータを一枚のシート内に並べて配置し動作させることでシートが波打つ動作を、また、4つの基本アクチュエータを足に見立てて、四足で立ち上がる動作をそれぞれ実現した。 また、重要な構成要素の一つである圧力発生源(電気浸透流ポンプ)の埋め込みと、基本アクチュエータとの一体化を行った。直径5mm、高さ2.6mmの円筒形多孔質セラミックを、白金線で挟んで構成される埋め込み型電気浸透流ポンプユニットを作製したところ、55Vの印加電圧に対して200kPa以上の圧力を出力できることが実証された。それをアクチュエータに組み込むことで、圧力源を内蔵した基本マイクロハイドローリックアクチュエータを実現した。埋め込み型電気浸透流ポンプに55Vの電圧を印可すると、90秒後に基本アクチュエータの先端部は25mm変位することが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
アクチュエータ材料として、計画段階では東レ・ダウコーニング社製のシリコーンゴムSilpot 184を想定していた。しかし、Silpot 184を用いて基本アクチュエータを試作し、基本動作の実証実験を行ったところ、当初予測していたほどの大変形を得ることができず、アクチュエータ材料の変更を余儀なくされた。そのため、新しい材料の調査と選定、新しい材料の力学的特性を調べるための実験、さらにその新しい材料を使った基本アクチュエータの試作と実証実験を行う必要が生じたため、計画にやや遅れが生じた。 Silpot 184は応力に対するひずみ量が小さいという材料特性を持っているため、超弾性変形が求められるマイクロハイドローリックアクチュエータ用材料としては不適であることが分かった。そこでそれに変わる材料として信越シリコーン社製のKE1603を調達し、その応力―ひずみ特性を調べる試験を実施したところ、Silpot 184と比べて2倍の伸び率を有することがわかったため、アクチュエータ材料としてKE1603を採用した。その後、材料をKE1603に変更してアクチュエータの試作と実証実験をやり直した。そのため計画に遅れが生じ、当初計画していた構造解析シミュレーションと動作メカニズム解析を実施することが出来なかった。なお、平成25年度に実施できなかったこれらの項目については、翌年平成26年度に実施し、無事に達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
まず、平成25年度内に達成できなかった、構造解析シミュレーションツールANSYSを利用したマイクロハイドローリックアクチュエータの数値解析を実施する。超弾性体であるシリコーンゴム素材で構成されたマイクロハイドロ-リックアクチュエータを構造解析シミュレーションするには、応力-ひずみの関係などの材料物性を知る必要があるため、その物性を知るための計測試験を行い、それから得られる物性データをシミュレーションモデルに組み込む。それにより、すでに実証に成功したマイクロハイドローリックアクチュエータの動作を構造解析シミュレーションでも再現し、その基本動作原理の実証とメカニズムの解明に取り組む。 次に、アクチュエータ動作スピードの向上が課題であると考えている。現在の電気浸透流ポンプ内蔵型の基本アクチュエータでは、初期状態から25mmたわむまでに90秒要している。これは電気浸透流ポンプの圧力特性によるものだが、アクチュエータのデザインや寸法を改良することで、動作にかかる時間の短縮を目指す。実証実験と構造解析シミュレーションの両方からアプローチすることで、効率的に進めていく。 加えて、これまで達成できたのは基本的な動作のみであるため、今後は、より複雑な動作を実現できるアクチュエータのデザインを探る。それにより、より実用に近いアクチュエータへの発展を目指す。 マイクロハイドローリクスにおいて、もう一つの重要な構成要素が制御回路系である。小型化した電子回路、通信機構、バッテリーを集積化し、電気浸透流ポンプを始めとする構成要素をスタンドアローンで動作させる回路系の開発を試みる。最後に、これらの構成要素を統合したマイクロハイドローリックアクチュエータの実証に向けた、具体的な応用や実用化に関する検討も開始する。
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