研究課題/領域番号 |
25249032
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鳥海 明 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50323530)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 電子デバイス / 半導体物性 / ゲルマニウム / 同位体 / 界面散乱 |
研究実績の概要 |
Ge薄膜中のキャリア輸送機構の界面に関しては,あるレベルの高性能を確保した状況で調べなければならない。我々はこの数年間でGe FETにおける移動度の改善に注力してきた。その結果,ほとんど無理と言われていたn-チャネルFETにおける電子移動度が世界でトップの値を実現できるまでに至っている。その上で,Geチャネル中における散乱機構に関する研究をすすめ,H26年度は次の二点について極めて大きな展開があった。 1) n-チャネルGe FETにおける移動度に関してGeとゲート絶縁膜界面に焦点をあてて検討してきた。しかしながら,多くの実験を重ねる中で,Ge基板の“質”が移動度に影響していることがわかってきた。この事はまさに高い移動度を通常的に実現できるようになったからである。この原因を探る中で,昨年度に行った水素アニールが基板の質に大きな影響を及ぼしていることがわかってきた。つまり,水素アニールを施すと基板の差が無くなってくることがわかった。 2) 多くのゲートスタックを試すなからYGO(Y2O3をドープしたGeO2)はきわめてよい界面を実現できることがすでにわかっていたが,比誘電率は8~9程度であり,本当にスケールされたゲートスタックでは使えない。実際にはHigh-k膜が必要であるが,通常よく使われるHigh-k膜であるHfO2は使えないことはわかっている。そこでGeに適したHigh-k膜を開発することが求められていた。その中で,我々はYScO3がGe上でHigh-k膜として機能することを明らかにした。YもScもGeに対して界面欠陥を作りにくい元素である。さらにY2O3もSc2O3も比誘電率は12~14であるがYScO3では17~18の値が得られるHfO2と同程度である。 これら二点の実現はGe FETの移動度向上に対する本質的な貢献と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現在までに,NチャネルGe FETの移動度向上に関して予想された課題に関しては一つ一つ本質的な部分をクリアしてきた。平成26年度は,さらには予想していなかった基板による移動度への影響に関して新たな発見ができたことはGe電子デバイスを考える上できわめて重要な発見がなされたと言える。Ge基板中にはSiと同様に,酸素が含まれており,これが電子の移動度と関係していることが世界で初めて見つけられた。これは水素アニールによって表面平坦化を行っている時に見つけられたことである。Ge基板内に酸素が存在していることは容易に想像できるが,このことは直接的に酸素の物理分析(二次イオン質量分析:SIMS))によって,実験的に世界で初めて示すことができた。移動度との関係は水素アニールによって基板中酸素が還元されて散乱源を大きく低下させているという現象論的関係であるが,この事実も世界初の報告である。また還元温度を変えると残留酸素濃度も変わり,それによって電子移動度が大きく影響されるという整合性も明らかになった。 上記の解析によって,散乱機構という観点からは,界面準位,界面ラフネス,基板内散乱という半導体中のキャリアに関するほぼすべての散乱機構に関して,それぞれの効果を抜き出して,またそれを克服する指針も具体的に示すことができたと言える。 これらの研究成果によって,本基盤研究Aの本来の目的を達成できたと考えている。それに加えてゲート絶縁膜のスケーリングに対する処方箋に関しても具体的に材料を含めて提案し,実験的にも世界的にもっとも薄い実効酸化膜厚を示すGe基板上のゲートスタック動作を示すことができた。さらにその根拠は熱力学的に裏付けされたものであり,きわめて本質的な発見と考察に基づくものであり計画以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本基盤研究の大きな目的はNチャネルGe FETの移動度の向上にある。その点からはこの数年間の進展はきわめて大きく,散乱機構の解明という観点からは,ほぼその目的は達成できたと考えている。一方でGeは本来的に同位体を多く含み通常使っているGeはほぼ5種類の同位体がほぼ同分率で含まれていることが知られている。そのことは電子の散乱という観点からは明らかに望ましくない。つまり同位体は化学的には同じだが,格子の周期性を乱す原因であり,フォノンという観点からはそのエネルギーを局所的に変えることになる。その点から本基盤研究の目的としてGe中の電子輸送に対する同位体効果についての研究を目的として掲げてきた。 これに関して実験的にはGeのホモエピ技術という形で昨年度も成膜を試みてきた。ホモエピは単結晶Ge基板上にMBE法によって数十ナノメートルの成膜を試みたが,74Geが粉末であるという事からか,単結晶Geから出発した場合のホモエピ膜に匹敵するところまでの質を有する膜が完成していないのが現状である。一方で74Geが高額であるということから,このまま試行錯誤的に成膜と評価を続けていても無駄が多いと考え,今年度は最終年度ということもあり,これに関しては,物理測定,特にラマン分光,フォトルミネッセンス,昇温脱離法による質量分析などに関して詳細に調べる計画である。それによって単結晶Ge基板と同位体基板との違いに関して明らかにしたデータを残すところまでは必ず行う計画である。さらに電気的にはMOSキャパシタ測定の部分までを試みる。それによって,通常のGe基板との差,それの現れ方などを明らかにする。 上記の同位体に関する結果と,昨年度までの結果をあわせて,Ge中の電子散乱機構についてのまとめを行ない論文化をすすめる。
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