研究課題/領域番号 |
25249060
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岸 利治 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (90251339)
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研究分担者 |
酒井 雄也 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (40624531)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | コンクリート / 耐久性 / 塩害 / 浸透 / 拡散 / 移流 / 停滞 |
研究実績の概要 |
実構造物調査を重ねて液状水浸入/塩分浸透の停滞現象を示すデータの蓄積を図ることを目的に、北海道苫小牧に位置する火力発電所の施設の中から飛沫帯に位置する実構造物のコアを採取して、コンクリート中への塩分浸透状況の分析を実施した。その結果、鉛直高さ方向のコアの採取位置の違いにより、当初想定していた通りに塩分浸透の状況が停滞傾向を示しているものと、一度の調査では塩分の浸透が停滞しているとは言い切れない傾向を示すものとが確認された。具体的には、鉛直方向に3段階の異なる高さから採取したコアにおいて、上段と中段における塩分浸透フロントの位置は比較的に浅い位置で一致していたが、最も飛沫に曝される頻度が高いと考えられる下段における塩分浸透フロントの位置はより深いところであった。当該構造物はコンクリート材料としてフライアッシュを用いた構造物であったため、既に塩分浸透が停滞していることが予想されたが、塩分の浸透が停滞しているとは言い切れない傾向が確認されたことから、その原因を更に詳細に確認するために、試料分析内容の再検討と試料の空隙構造の分析を行った。その結果、コンクリートの空隙構造はある程度緻密なものであり、特段の不具合は認められないことを確認した。コンクリートの空隙組織形成が十分に緻密になっていれば、環境条件としての飛沫の供給頻度に差があっても塩分浸透のフロント位置は一致するというのが現時点での仮説であるが、今回の調査結果を通して、フライアッシュは初期の反応速度が極めて遅いために、建設後の経過時間が数ヶ月程度の若材齢で早期に飛沫に曝されると、今回のような過大な塩分浸透が生じる可能性が有力なシナリオの一つとして考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実構造物から採取したコアの一部において、コンクリート材料としてフライアッシュを使用しているにも拘わらず、塩分浸透の停滞現象が確認できなかったことから、その原因を明らかにするために詳細な検討を行う時間を要した。しかし、フライアッシュの初期の反応速度が極めて遅いことを考慮に入れれば、飛沫に触れるリスクが高い海面近傍の下段の位置においては、建設後の経過時間が数ヶ月程度の若材齢で早期に飛沫に曝されたために過大な塩分浸透が生じた可能性が合理的に想定された。このような計画時に必ずしも想定していなかった事象の確認により、その原因推定に追加の検討が必要となったが、このことは想定する仮説の一般性を補強する上での重要なプロセスであった。
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今後の研究の推進方策 |
さらに実構造物調査を重ねて液状水浸入/塩分浸透の停滞現象を示すデータの蓄積を図る。過去に数回調査分析を行って塩分浸透の停滞傾向を確認している構造物の前回の調査から5年が経過していることから、当該構造物の調査を再度行い、塩分浸透停滞現象の検証を行う。また、塩分浸透範囲と液状水浸潤範囲の相関が重要な検討事項であるので、実構造物調査では内部含水率の深さ方向の分布を把握すると共に、採取した試料の室内実験によって空隙構造の把握を行う。 フライアッシュ含有コンクリートが高い遮塩性能を示している一方で、室内実験や一部の実構造物ではそこまでの高い遮塩性能を示していない事例があることから、反応に長い時間を要するフライアッシュの特徴と暴露開始材齢(塩分侵入開始材齢)との関係を把握するための実験を行う。 また、昨年度作製した室内作製供試体や過去に実構造物から採取して室内浸せき試験を継続している試料等の分析を行い、塩分浸透停滞現象に関する検討を行う。 塩分浸透の停滞現象は実構造物で確認されている事実であるが、これが環境要因等の耐久設計では十分な考慮が難しい特異な現象であるのか、材料・配合等の耐久設計で考慮可能な要因による一般化が可能な現象であるのかを吟味するため、過去に関連研究での豊富な実績を有する研究分担者により、既往のデータおよび知見に基づいた比較検討を行う。
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