研究課題/領域番号 |
25249060
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岸 利治 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (90251339)
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研究分担者 |
山田 義智 琉球大学, 工学部, 教授 (80220416)
武若 耕司 鹿児島大学, 理工学研究科, 教授 (10155054)
山口 明伸 鹿児島大学, 理工学研究科, 教授 (50305158)
杉山 隆文 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70261865)
山路 徹 独立行政法人港湾空港技術研究所, 構造研究領域, 領域長 (10371767)
岡崎 慎一郎 独立行政法人港湾空港技術研究所, 構造研究領域, 研究官 (30510507)
酒井 雄也 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (40624531)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | コンクリート / 耐久性 / 塩害 / 浸透 / 拡散 / 移流 / 停滞 |
研究実績の概要 |
フライアッシュが使用された護岸構造物から採取したコアを用いて以前から継続してきた室内塩水浸せき試験の分析を塩水浸せき期間36ヶ月において実施した。その結果、浸せき期間が3年まで延びているにも拘わらず、数ヶ月時点での浸透状況と比較して塩分の浸透位置が変化していないことを確認した。このことから、塩分の浸透が拡散則に従わずに停滞する場合があることを室内塩水浸せき試験でも確認したといえる。 また、前年度に作製した実験供試体を用いて材齢4ヶ月時点からの室内浸漬試験を実施した結果、フライアッシュを用いたコンクリートにおいて、3ヶ月程度の封緘養生を行った供試体では塩分浸透の停滞現象が確認できるのに対して、3ヶ月の水中養生の後に、40℃炉乾燥で供試体を相当に乾燥させた場合には、空隙構造が緻密であるにも拘わらず、塩分が相当深くまで浸透するという特筆すべき事実を明らかにした。すなわち、空隙構造がある程度緻密であり、含水状態が不飽和かつある程度の凝縮水が存在する状態という2つの条件が満たされる場合においてのみ塩分浸透の停滞現象が生じる可能性を示した。 さらに、過去に複数回塩分浸透の停滞傾向を確認している護岸構造物の調査が前回から5年経過したことから、当該構造物の調査を再度実施し、塩分浸透停滞現象の検証を行った。調査では、高さ方向に3段階の異なる位置からコアを採取しているが、飛沫の接触頻度が最も高いと考えられる平均海水面に最も近い下段とそれに続く中段の位置では塩分浸透の停滞が継続していることを確認した一方で、最も高い位置にある上段では深さ方向への塩分浸透が継続しており、その浸透フロントの位置は、下段や中段の浸透停滞位置よりも深くなっていることを確認した。このことは、乾燥が進むと塩分浸透の停滞機構が喪失する可能性を示唆する結果であり、室内実験で確認した塩分浸透停滞現象の必要条件とも整合する結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実構造物調査および室内試験の両方において、フライアッシュコンクリートにおける塩分浸透停滞現象の確認と、乾燥の進行による塩分浸透の継続が確認されたことにより、塩分浸透が停滞するためには、空隙構造がある程度緻密であり、含水状態が不飽和かつある程度の凝縮水が存在する状態という2つの条件が必要であることが明らかとなってきた。また、フライアッシュコンクリートがその特徴を十分に発現するためには、塩分浸入のリスクに曝される以前に数ヶ月程度の十分な養生と適度な乾燥が必要であることも明らかとなってきた。このように、塩分浸透停滞が生じない条件を確認したことにより、逆に塩分浸透停滞が生じる条件を明らかにしつつあり、従来の見なし拡散に基づく簡易な照査方法に比べて、より合理的な照査方法を提案するための検討を着実に進めている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の検討により、コンクリートの空隙組織構造が緻密であっても、コンクリートが過度に乾燥していると、その後の外部からの液状水の浸入に対して制動がかからず、移流による塩化物イオンの侵入が停滞しないということが明らかになった。このことから、移流が停滞するには、コンクリートの空隙組織構造がある程度緻密であることに加えて、コンクリートがある程度の内部含水率を有していることが必要な条件であることが明らかとなった。すなわち、空隙構造の内の主たる物質移動経路となるサブミクロンからミクロンオーダーの連続空隙は不飽和であっても、10nm前後の微小な空隙群には凝縮水として液状水が存在していることが、比較的粗大な連続空隙を移動する液状水流れに対して制動力を与える必要条件であることが明らかになったといえる。また、フライアッシュや高炉スラグ微粉末等の混和材を結合材の一部として使用することが、移流による塩分浸入をより顕著に停滞させることも明らかになっている。そこで、塩分浸透の停滞現象を確実に生じさせるための必要十分条件を更に明確にするために、これまで継続してきた室内実験を継続して定性的な傾向に関する知見を更に集積すると共に、さらに定量的で信頼性の高い評価に繋げるために、環境温度や湿度条件をパラメータとした室内実験を実施する。また、昨年度に引き続き、関連研究での豊富な実績を有する研究分担者により、既往のデータおよび知見に基づいた比較検討を行うと共に、塩分浸透に対する耐久性照査手法の改善についての意見交換を行う。最終的に、使用材料種類・コンクリート配合・養生条件・環境条件(温度・湿度)等をパラメータとした液状水浸潤に着目した耐久性照査式の構築に取り組む。
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