研究課題/領域番号 |
25249068
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
横山 勝英 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 准教授 (10347271)
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研究分担者 |
千葉 晋 東京農業大学, 生物産業学部, 教授 (00385501)
山本 光夫 東京大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (30361512)
吉永 郁生 公立鳥取環境大学, 環境学部, 教授 (40230776)
中山 耕至 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (50324661)
益田 玲爾 京都大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (60324662)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 森里海連環 / 溶存有機態 / 溶存鉄 / 震災湿地 / 魚類調査 / ベントス多様性 / 物質循環 |
研究実績の概要 |
本研究では,宮城県気仙沼市の大川・西舞根川・気仙沼舞根湾を対象として,物質循環と生態系の構造を調査研究した.テーマは(1)基本視点としての森里海連環,(2)湿地・干潟の物質循環,(3)生態系構造とその時間変化,(4)生態系サービスの定量化である. (1)では流域・河川・海域で水と土砂を採取し,溶存有機態炭素濃度と3次元励起蛍光特性を計測し,複数の腐植酸様物質とタンパク様物質に分離した.土地利用との相関解析を行い,各画分の供給源を考察した.さらに,全鉄・溶存鉄と窒素・リンの動態を解析し,河口域で降水量と全鉄濃度に相関がみられることを示した.つまり,鉄濃度の挙動は河川流量等と関係があることを示した. (2)では震災湿地において,1潮汐の水収支と栄養塩収支を調べた.その結果,NH4-N,PO4-Pの溶出が見られ,湿地水中の植物プランクトンの吸収よりも底泥における分解作用が上回っていると考えられた.またNO3-Nの消費は,植物プランクトンの吸収に加えて,底泥における脱窒作用が寄与している可能性が考えられた. (3)では2ヶ月に1回,気仙沼湾内外4地点での桁網を用いた小型底生魚類調査と,湾奥河口および新生湿地での曳き網を用いた仔稚魚調査を行った.仔稚魚調査からは,新生湿地の魚類成育場としての利用が増加しつつあることが明らかとなった.また,魚類および無脊椎動物群集の津波による撹乱からの回復過程を明らかにするため,舞根湾内外の4地点において潜水目視調査を行った.2016年3月時点で,2ヶ月に1回の調査が通算で30回となった. (4)では,震災による陸地の湿地化から5年が経過し,ベントス多様性には干潟の場所ごとに明確な変化が現れた.特に,自然海岸に近い地点では種多様性は増加し,アサリの現存量も多かったが,地盤が高く護岸コンクリートが残存した場所では,逆の傾向を示すことを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
テーマ(1)基本視点としての森里海連環では,降水量と鉄・栄養塩(N,P)濃度の相関性について解析を進めることで,海域中の鉄・栄養塩の動態に及ぼす河川などの影響についての新たな知見を得ることができた.底質中の鉄含有量についても検討を開始しており,研究はほぼ予定通りに進捗している. テーマ(2)湿地・干潟の物質循環では,湿地における水収支を詳細測量と水位計算から求めたことで,栄養塩収支を精度良く見積もることができた.これにより,湿地を介した河川から海への栄養塩供給・吸収のメカニズムを考察することを可能にした.このように,研究は予定通りに進捗している. テーマ(3)生態系構造とその時間変化では,小型底生魚類調査,仔稚魚調査ともにほぼ計画どおりに実施できている.試料分析についても基本的な同定・計数・計測は順調に進捗している.また,目視潜水調査については,過去5年間のデータを解析し,長寿の生物ほど遅れて回復する傾向を明らかにした.それらの知見を論文としてとりまとめ,2016年2月にMarine Ecology Progress Series誌に投稿した. テーマ(4)生態系サービスの定量化では当初の予定通り,有用種であるアサリを含む干潟ベントス類の動態データの蓄積を継続した.アサリの加入プロセスに関しても詳細な調査を実施した.
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今後の研究の推進方策 |
テーマ(1)基本視点としての森里海連環では,モニタリングと既存データの解析をさらに進めるとともに,新たに外洋でのサンプリングを行い,河川からの供給と湾内流動を合わせて,湾内の栄養塩や植物プランクトン濃度の時空間変動に関する知見を得る.また,湾内の海底泥の放射性セシウム(137Cs)濃度を測定し,2013年度に採取したデータと比較することで,湾内の汚染状態の実態とその要因についての解析を行う.さらに,底質中の鉄含有量についても分析を進め,海域における鉄の動態についてのより詳細な検討を行う. テーマ(2)湿地・干潟の物質循環では,湿地底泥を採取して,底泥と直上水との物質収支を実験的に調べる.これにより,昨年度の調査で求めた物質収支のうち,物質のソース・シンクとなる底泥部分のプロセスを示す. テーマ(3)生態系構造とその時間変化では,今年度も2ヶ月に1回の定期調査を継続するとともに,新生湿地については仔稚魚個体数の多い初夏に,より高密度の調査を行って成育場としての利用様式を解明したい.年度後半には,これまでの結果を論文として公表することを目指す.目視潜水調査を引き続き行うとともに,新たに採水および底質の採取を開始する.これら試料は,環境DNAの分析に供する.特に,過去の生態系をDNAから再構築する技術の開発を目指す. テーマ(4)生態系サービスの定量化では,当初の計画通りベントス多様性のモニタリングを継続する.特にアサリの資源推定に関しては,調査規模を拡大する.また,アサリの水質浄化機能等の調整サービスに関しても新たに実験を行う.
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