研究課題/領域番号 |
25249071
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
喜多 秀行 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50135521)
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研究分担者 |
四辻 裕文 神戸大学, 学内共同利用施設等, 助教 (40625026)
吉田 樹 福島大学, 経済経営学類, 准教授 (60457819)
井上 茂 東京医科大学, 医学部, 教授 (00349466)
後藤 玲子 一橋大学, 経済研究所, 教授 (70272771)
佐々木 邦明 山梨大学, 総合研究部, 教授 (30242837)
谷本 圭志 鳥取大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20304199)
桑野 将司 鳥取大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70432680)
塚井 誠人 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70304409)
溝上 章志 熊本大学, 自然科学研究科, 教授 (20135403)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 国土計画・交通工学 / 過疎地域 / 公共交通 / 潜在能力 / 社会的選択 |
研究実績の概要 |
本申請課題は,「活動機会の保障水準」と「負担」の「組合せ」を地域住民が選ぶという考え方に基づく公共交通の計画方法論に加え,住民が互いの状況をよく理解し円滑な選択を可能とするしくみを開発し,実務で利用可能な構造へと再構築することを目的とする. 平成27年度は,主として以下の研究を実施した.(1)活動機会の大きさを計測するための実証分析の方法論を開発した.本方法論は,フロンティア分析に基づき,本質的に観測不可能な「活動機会の大きさ」を観測可能な「行動結果の頻度」と対応づけ,後者から前者を推計することにより後者の実態調査データに基づく実証分析を可能とするという構造を有しており,先に開発したアクセシビリティ指標などとの関係を明らかにした.(2) この方法論を用いて買い物行動に関する実態調査を行い,都市地域と過疎地域の間に活動機会の大きさに有意な格差が存在すること,この格差はアクセシビリティと外出能力の両者が共に低い住民に顕著に見られること,原発事故による制約条件下においても同様の傾向が観測されること,外出能力が活動機会を規定するのみならず,後者が前者の維持にも寄与しているといった相互作用の存在を見出した.これらを通じ,活動機会の大きさが活動拠点までのアクセシビリティ(資源)と外出能力の高さ(資源利用能力)の組み合わせに依存するという潜在能力理論に基づく方法論開発の妥当性を確認した. (3)構築を進めている「機能集合としての潜在能力の大きさを,最大達成点の個人評価値のみでなく機能集合そのものの大きさを含めて評価するための評価の枠組み」に,先に開発した「社会的関係関数」の考え方とロールズの「格差原理」を組み入れ,個人的選択のレベルに留まっていた上記の枠組みを社会的選択の文脈に拡張した. 得られた成果は,学会での報告と論文誌への投稿により公表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画調書に記した4つのサブテーマに関する進捗状況は以下のとおりである. (1)活動機会の保障水準に準拠した計画方法論の理論的検討:個人の資源利用能力が異なる場合,効用アプローチに基づく最適解と潜在能力アプローチに基づく最適解が異なるが効用アプローチではその差異自体を考慮しえないことを明らかにし,これまで明解な説明がなされてこなかった“なぜ伝統的な効用理論ではなく潜在能力理論なのか”という問いに一つの解を与えた.潜在能力理論でいう“資源”を“機能”に変換する“資源利用能力”を明示的に組み込んだモデル,機能平面上にプロットされる複数の代替案を集合として評価するための個人評価モデル,複数住民の機能別達成度に基づき社会的に望ましい代替案を選定するモデルの基本形は概ね完成し,計画方法論の理論フレームが確立しつつある. (2)活動機会の保障水準の定量化と住民の認識・評価構造の解明:潜在能力を最大化する公共交通のサービス水準の理論的導出法を一定の仮定の下で複数主体に拡張した.交通特性,地域特性,個人属性,世帯属性等と諸活動を行うための活動機会の関係構造についてもいくつかの知見が得られており,両者を統合して保障水準の定量化に繋げる試みを行っている. (3)政策代替案選定のための調査・絞り込み技法の開発:理論面では社会的選択可能なモデルへの拡張を終え,実証面では社会調査手法の設計技術「コミュニケーション型ウェブ調査技法」,および,地域社会全体として“偏りが生じない”よう全体情報を適切に分割して住民に提供し形成された意見を集約して「地域社会の総意を取りまとめる情報共有手法」の基本形を開発した.これらを計画策定の方法論に組み込むとり組みを行っている. (4)フィールドスタディについては6地域で実施し,所要の成果が蓄積されつつある. 以上より,概ね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は本研究課題の最終年度であり,(1)構造モデルや計測手法などに関する理論面でのこれまでの研究成果を全体的枠組みに基づき相互接続可能な形に再構成すること,(2)地域社会の総意を形成するための“歪みのない”情報共有と意見集約の手法を開発し上記の枠組みに組み込むこと,(3)提案した方法論が適切に機能するか否かを確認するための具体的検討を行うこと,の3つの方針に基づき「“地域社会がつくる公共交通計画”のための計画策定と社会的選択の方法論」の構築を図る. (1)については,これまで開発した「単一活動拠点へのアクセシビリティ指標値算定モデル」を「複数活動拠点へのアクセシビリティ指標値算定モデル」に拡張し,さらに各拠点において提供されるサービスのバラエティの大きさを組み入れて「サービスへのアクセシビリティ指標値算定モデル」へと拡張することにより、交通整備代替案を活動機会集合の大きさと対応付けて選択しうるようにする. (2)については、地域公共交通計画に関する地域社会の総意の形成は,計画に盛り込まれた事業等に対して個々の住民が形成した意見に基づき行われるが,各住民が一部の住民の声に偏った断片的で不十分な認識の下で自らの意見を表明する場合が多く見られる.しかし,計画に関係する全ての情報を提供したとしても個人の情報処理能力を遙かに超えてしまうため,状況はさほど改善されない.そこで,地域社会全体として“偏りが生じない”よう全体情報を適切に分割して住民に提供し、それに基づき形成された意見を集約して地域社会の総意として取りまとめる情報共有手法を開発する. (3)については、過年度において調査・分析を実施した地域での試行と,開発を進めている「コミュニケーション型ウェブ調査技法」を用いたウェブ調査等とを適宜組合せ,検討を進める. 上記の成果を過去3年間の成果と統合し,研究のとりまとめを行う.
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