研究実績の概要 |
浄水処理工程におけるウイルスの除去能については,多くの研究が実験室スケールまたはパイロットスケールで行われてきた.一方で,技術上の困難から実浄水場スケールでこれを行った研究は少なく,また除去効率を定量的に評価できているケースはさらに少ない.以上のことから,本研究では,実際の浄水場における単位処理工程のウイルス除去効率を実測することを目的とした. 水試料の濃縮は,陰電荷膜を用いた酸洗浄・アルカリ誘出法による1次濃縮およびUF膜を用いた遠心ろ過法による2次濃縮を組み合わせて行った.核酸抽出、逆転写反応、およびTaqMan real-time PCRによりウイルス濃度を定量し,濃縮した試料容量等のデータから試料中のウイルス濃度を算出した. バンコクの浄水場で原水,凝集・沈殿工程後の処理水,急速砂ろ過工程後の処理水をそれぞれ0.5-1 L,20 L,120-450 L採取し,濃縮した.試料採取の頻度は週1回程度であり,原水,凝集・沈殿工程後の処理水,急速砂ろ過工程後の処理水についてそれぞれ11試料,11試料,10試料を採取した.広島県の2箇所の浄水場において合計32試料を採取した. バンコクの試料では、測定対象としたウイルスの中でPMMoVの陽性率が最も高く,原水試料,凝集・沈殿後試料,急速砂ろ過後試料からそれぞれ100 %, 82 %, 100 %の陽性率で検出された.JC PyVの陽性率はPMMoVについで高く,各試料からそれぞれ100 %, 82 %, 100 %の陽性率で検出された.広島県の試料では、検出阻害軽減化処理後のPMMoV陽性率は全試料について88 % (28/32),原水試料について100 % (12/12) であった. 除去効率の算出には処理工程前試料および処理工程後試料の両者から濃度が定量された場合のデータのみを用いた.凝集・沈殿および急速砂ろ過による処理が,緩速砂ろ過による処理に比べてウイルス除去能において優れていることが示唆された。
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