研究課題
基盤研究(A)
平成25年度は、4年間の研究を実施する上で必要となる基礎資料の収集を中心に据え、まずは、東日本大震災における長周期建物の被災状況を調査した。高層建物については、内閣府の委託を受けて建築学会で調査した結果を基礎としつつ、新たなデータの発掘を行った。また、名古屋地区の高層ビルの揺れを多面的に分析した。また、現在、建設中の免震超高層住宅を対象に建設時に継続的に強震・微動計測を実施した。スペクトル比をとる位置を変えることで、免震建物と非免震建物の振動性状の階数依存性に関する基礎資料を得、共通地盤―基礎条件上での動的相互作用効果の階数依存性に関する基礎資料を得た。これにより、免震効果、動的相互作用による周期の伸長効果や減衰付加効果を定量的に把握した。また、同一地盤―基礎条件下での全ての階数の計測データを得ることで、これをレファレンスとして、様々な地盤―基礎条件、階数の建物のデータの影響分析をする体制を整えた。免震建物に関しては、共通の免震システムを用いて国内に約4000棟余り建設されている免震戸建住宅を対象として基礎資料を構築した。この住宅では、東北地方太平洋沖地震の揺れを約1000棟が経験しており、簡易な罫書記録も残されている。また、震源から離れた一部の地域で、地盤との共振により、過大な免震変形が生じていた。そこで、免震戸建住宅のデータベースを作成し、位置情報、地盤条件、罫書記録による最大変形、経験震度などの情報を収集した。また、グリーン関数の相反定理を利用するという、新しい発想の強震動予測手法の構築に着手した。これは加振点と受振点の位置関係を入れ替えても、計算上同様の地震動を得ることができることを利用したものである。なお、平成25年度には、各自治体で実施中の地震被害予測で構築した基礎資料を収集し、平成26年度以降の地下構造モデル策定の準備を行った。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題は3ヶ年の研究計画となっている。平成25年度は免震建物の被害状況や宅地での微動計測といった基礎資料の収集を中心に行った。平成26年度は免震・超高層建物と宅地での微動調査を継続するとともに、より高解像度の地下構造モデルの策定、相反定理を利用した強震動予測手法の開発を行う。平成27年度は微動調査を継続するとともにホバー振動台の開発を行い、平成28年度は建物大衆工法の開発とVR環境で揺れを体験する3次元立体視聴覚環境を実現する予定となっている。平成25年度の達成度としては、まず名古屋市内に位置する超高層建物の振動を多面的に分析した。この建物は中層階において建物の断面形状が変化しており、このことが振動モード形状に与える影響を確認するなど、超高層建物の揺れに関する知見を得ることができた。また、同じく名古屋市内に位置する超高層住宅建物について建設時の継続的な微動調査と強震動観測を行い、振動性状の建物高さ依存性に関する知見を得た。強震動予測手法の開発に関しては、強震動評価地点を加振点とし、想定震源位置と受振点として地震動のシミュレーションを行うという、相反定理を利用した地震動予測手法の検討を行った。その結果、地震波の入射方向によって対象地点での振動性状が異なることを確認し、東海地域の長周期建物建設地点の揺れを予測するための基礎資料を得た。以上のような成果を鑑みて、本研究課題の進捗状況を「おおむね順調に進展している」と判断した。
平成25年度に引き続き、東海地区を対象に、免震戸建住宅建設敷地での地盤微動調査を実施する。また、建設中・解体中の高層建物の観測機会が得られれば、平成25年度と同様の観測を実施する。これに加え、地下構造モデルの策定と、高精度地震動予測手法の構築、ならびにこれらを用いた強震動予測を行う。まず、地下構造モデルの策定は、東海地域を主たる対象地域とする。研究代表者が所属する減災連携研究センターの寄付部門と連携して、寄付部門設置者である中部電力、東邦ガス、応用地質と、各社が保有するボーリングデータのデータベース化を進める準備を行いつつある。これらのデータをコンパイルすることで、従来とは格段に解像度の異なる新しい発想に基づく表層地盤モデルを構築する。合わせて、研究代表者らが十年来維持管理してきた東海圏強震動総合観測ネットワークで収集された愛知・三重・静岡県下の中小地震の地震観測データ(約500地点の観測データ)や、微動調査データを利用して、震源・地盤同時インバージョンを行い、地下構造モデルのキャリブレーションを行う。
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予防時報
巻: 254 ページ: 12-17
日本建築学会構造系論文集
巻: 78 ページ: 2083-2092
巻: 694 ページ: 2123-2131