研究課題/領域番号 |
25249090
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 勝久 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80188292)
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研究分担者 |
藤田 晃司 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50314240)
村井 俊介 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20378805)
北條 元 東京工業大学, 応用セラミックス研究所, 助教 (90611369)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 酸化物 / 磁気的性質 / マルチフェロイクス / 磁気光学 / 薄膜 / 準安定相 / 圧電性 / 非線形光学 |
研究概要 |
本研究は特にマルチフェロイック材料ならびに磁気光学材料として有用な準安定酸化物薄膜を創出することを目的としている。初年度は新たな物質探索に焦点を当てた。まず、準安定相に新規化合物を見いだす目的で、高温高圧合成を利用して酸化鉄系の新物質合成を試みた。特にマルチフェロイクスを意識してScFeO3の合成に注力した。この化合物は常温常圧でビクスバイト型構造を取るが、高圧下でコランダム型に転移することが知られている。本研究では従来よりも高い圧力での処理を施し、高温高圧でのペロブスカイト型を経てニオブ酸リチウム型のScFeO3を得ることに成功した。加えて、この化合物が室温以上にキュリー温度を有する弱強磁性体となることを明らかにした。 また、準安定酸化物薄膜としてNb添加EuTiO3薄膜の合成に成功し、Nb濃度が低い場合にはこの固溶体は反強磁性半導体であり、Nb濃度が高いと強磁性金属に転移することを見いだした。この系に関連して、これまでに合成されていないペロブスカイト型EuNbO3の固相反応法による作製を試み、原料ならびに合成条件に工夫を施すことで単相のEuNbO3を合成することに成功した。 さらに、ミストCVD法を用いて多結晶ならびにエピタキシャル成長したY3Fe5O12薄膜を合成し、磁気光学効果の一つであるファラデー効果測定を行い、作製した薄膜が短波長領域で大きなファラデー効果を示すことを明らかにした。 準安定相ではないが、ルドルスデン-ポッパー型酸化物において、Bサイト回転という新しい機構によって圧電性を示す酸化物を得ることにも成功した。第一原理計算で理論的にフォノンの状態を考察して安定な結晶構造を導き、それがシンクロトロン放射光を用いた精密なX線回折測定の解析結果と一致することを明らかにし、結晶構造の対称性に基づいて生じる圧電性と2次非線形光学効果の存在を実験的に証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究成果は、いずれも最終的な研究目的を達成するための重要な知見をもたらすものである。たとえば、室温弱強磁性を示すニオブ酸リチウム型ScFeO3は高圧下での構造相転移によってもたらされたものであり、応力の印加による構造変化は薄膜と基板の格子不整合を利用して導くこともできる。実際に研究代表者らはEuTiO3薄膜を格子不整合が存在する様々な単結晶基板に蒸着することによりEuTiO3薄膜に応力と歪みを誘起し、安定相のEuTiO3が反強磁性体であるものの、格子体積が増加して準安定相になると強磁性が安定化することを実験と理論の両面から明らかにしている。この手法を高温高圧合成で得られる相に適用することができる。 ミストCVD法は比較的新しい薄膜合成の手段であり、原料の種類、出発溶液の濃度、キャリアガスの種類と流速、基板の種類、反応温度と時間など非常に多くのパラメーターを最適化する必要があるため、初年度はまず、安定相であるY3Fe5O12薄膜の合成を試み、エピタキシャル膜を得ることに成功した。この手法はBi3Fe5O12などのY3Fe5O12と同じガーネット型構造を持つ準安定相の合成に展開することが可能で、すでにその研究に着手している。 ルドルスデン-ポッパー型酸化物に関しては、圧電性を明らかにした相は準安定相ではないが、圧電性発現の機構がBサイト回転であるため、多くのペロブスカイト関連構造を持つ酸化物に適用できるとともに、薄膜と基板の格子不整合を利用して、準安定相においても同様の機構を実現することが可能であり、研究目的の達成のためには有効な知見を得たと言える。 Nb添加EuTiO3薄膜の合成は、準安定酸化物薄膜の合成に成功した一例であり、Nb濃度が高い固溶体が強磁性体となることも明らかにした。本研究課題の目的に適った成果と見なせる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に得られた様々な研究成果を個々に発展させながら、とりわけ準安定酸化物薄膜の合成とマルチフェロイック特性、磁気光学特性の発現に向けた研究へ展開する。まず、高温高圧合成で作製した準安定相のニオブ酸リチウム型ScFeO3についてはさらに詳しい磁気構造を調べるとともに、Scのサイトを他の元素で置き換えた系、たとえばInFeO3、GaFeO3などの高温高圧相の合成を試みる。特にイオン半径の異なる元素で置換することで、カチオン近傍の局所的な結晶構造と磁気的相互作用ならびに誘電分極の大きさとの相関を系統的に明らかにできると期待される。 準安定相を薄膜と基板の格子不整合に基づく応力によって導く系として、研究代表者らのこれまでの研究で準安定相が強磁性になることが予想されるEuZrO3とEuHfO3を対象に実験を進める。格子定数の異なる単結晶基板を準備し、スパッタリング法を用いて薄膜合成を試みる。作製した薄膜に対して、放射光X線回折を用いた精密な構造解析と巨視的な磁気的性質の測定を行う。これに関連してEuTiO3-EuNbO3固溶体の広い組成範囲での準安定薄膜の合成と磁気的・電気的性質の測定を進める。 磁気光学材料として有望な準安定酸化物の一つにBi3Fe5O12がある。この酸化物の薄膜の作製を、ミストCVD法を用いて試みる。薄膜が合成できれば磁気的性質、磁気光学的性質、光学的性質を調べ、実用的な材料としての特性を評価する。 新しいメカニズムであるBサイト回転による圧電性の発現が明らかとなったルドルスデン-ポッパー型酸化物に関して薄膜化を試みる。特にエピタキシャル膜の合成を試み、2次非線形光学効果を利用して、圧電性を定量的に評価する。この系はBサイトに磁性イオンを導入することにより、今後、マルチフェロイクスへの展開を目指す。
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