研究課題/領域番号 |
25249094
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
成島 尚之 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20198394)
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研究分担者 |
春日 敏宏 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30233729)
小笠原 康悦 東北大学, 加齢医学研究所, 教授 (30323603)
上田 恭介 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40507901)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 生体材料 / チタン / 光触媒 / アナターゼ / リン酸カルシウム / 骨適合性 / 生体吸収性 / 抗菌性 |
研究実績の概要 |
1.溶液析出法により作製したAgナノ粒子分散ハイドロキシアパタイト粉末およびその焼結体の抗菌性および細胞毒性を評価した。大腸菌を用い、(イ)粉末および焼結体試料を細菌含有溶液中に所定の期間浸漬、攪拌後、生菌数を測定するシェーク法および(ロ)細菌含有寒天培地中に試料(焼結体)を設置し、寒天培地上の細菌発育阻止領域(ハロー)を測定するハロー法により評価した。各方法に及ぼす菌液量、濃度、培養方法等を検討することで、試料形態、形状毎に最適な評価条件を見出すことができた。合成ままのハイドロキシアパタイト粉末においては、Ag添加量に従い抗菌性も高くなることが分かった。一方、焼結体においては同じAg添加量においても、Agが固溶したβ型リン酸三カルシウムの方が、金属Agとして分散したハイドロキシアパタイトよりも高い抗菌性を示すことを明らかにした。この結果よりβ型リン酸三カルシウムへのAg固溶が持続的な抗菌性の発現に有効であることを証明できた。ISOに準拠したV79細胞を用いた細胞毒性試験を行い、これらの試料に細胞毒性が無いことが示された。 2.チタン製生体埋入デバイスへの抗菌性付与を目的として、Ag含有β型リン酸三カルシウム高密度焼結体をターゲットとしたRFマグネトロンスパッタリング法により、Ag含有非晶質リン酸カルシウムコーティング膜を作製した。コーティング膜中のAg濃度はターゲット組成よりも低いものの、緻密かつ均一なコーティング膜を作製することができた。 3.Ti-AuおよびTi-Ag合金の二段階熱酸化処理により、AuおよびAg微粒子が分散したアナターゼ皮膜を作製することができた。ステアリン酸を用いた可視光照射下における光触媒活性評価方法を確立し、作製した皮膜は可視光応答性を有することを見出した。特にAu含有チタニア皮膜では高い可視光応答型光触媒活性発現が確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成26年度の主な研究項目である以下の二点に関しては、当初の計画以上に進展している。 1.Ag含有リン酸カルシウム粉末および焼結体の抗菌性評価方法の確立、評価および細胞毒性評価 Ag含有リン酸カルシウムは、Agが溶液中や培地中に溶解し、Agイオンが細菌に作用し抗菌性を発現する。溶解を伴う材料に適した抗菌性評価方法を確立することは、生体吸収性を有するAg含有リン酸カルシウムコーティング膜の抗菌性評価に繋がる。また、細菌の扱いを習得したことにより、来年度のコーティング膜の抗菌性評価をスムーズに進めることが可能となる。この抗菌性評価手法を駆使し、(イ)β型リン酸三カルシウムの生体吸収性に着目したAgイオン放出制御という抗菌性発現手法の提案、(ロ)Ag濃度の最適化により抗菌性を有しつつも細胞毒性を発現しないAg含有β型リン酸三カルシウムの作製、は当初の計画以上の進展と評価できる。 2.二段階熱酸化法による光触媒活性の可視光応答型チタニア皮膜の作製 チタニア中に貴金属微粒子を分散させることで、可視光応答型光触媒活性を示すチタニア皮膜の作製に成功した。これまで乾式法により作製されたチタニア皮膜からは可視光応答性がほとんど報告されていなかったが、基板とよく密着した新規皮膜合成方法を見出すことができた。特にTi-Au合金表面に作製したチタニア皮膜における優れた可視光応答型光触媒活性の発現は、その発現機構の解明も含めて、今後の学術的および工学的な発展が大いに期待できるので、当初の計画以上の進展と評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
1.Ag添加非晶質リン酸カルシウムコーティング膜の溶解性評価、抗菌性および骨形成能を評価する。溶解性評価は、擬似体液および細胞培養液中にコーティング膜を浸漬させ、コーティング膜の構成元素であるCa、Pおよび添加元素であるAgの溶解量をICP法により評価する。前年度に確立した手法を用いた抗菌性評価に加えて、非晶質リン酸カルシウムコーティングによる骨形成能向上にも着手し、骨形成能向上元素(Zn, Si, Mg)の添加方法の確立、溶解性評価、および細胞培養試験による骨形成能評価を行う。添加元素の溶解速度が大きすぎる場合には、Nbを共添加することで非晶質リン酸カルシウム膜の溶解性を制御し、添加元素の溶解速度を抑制する。 2.二段階熱酸化法により、基板中の合金元素もチタニア皮膜中に添加できることが明らかになった。これを踏まえ、AuやAgを添加したチタニア膜で発現する可視光応答型光触媒活性の発現機構を解明するとともに、抗菌性の発現や細胞適合性などの観点から貴金属含有チタニア皮膜を有するチタン合金の生体応用の可能性を探る。ラジカル発生量測定や生物学的評価とともに、チタニア皮膜中における貴金属元素の存在状態などの検討を必要がある。さらに、チタニアに固溶することで光触媒活性の向上が報告されている金属元素(X)に着目し、Ti-X系合金への二段階酸化法を適用して形成されるチタニア皮膜特性評価も引き続き行う。 3.平成27年度は本研究課題の最終年度であるため、これまでに得られた知見を論文として積極的に公表する。これらの知見を総合して、生体機能化のための機能性セラミックス界面層およびその構築プロセスを材料学的・生物学的観点から提案する。
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