チタンにおける水素および酸素といった軽元素の特異な振る舞いに着目し、従来のレアメタル元素添加依存から脱却した環境調和型チタンの材料設計原理の構築と共に、その高強靭化機構の解明を目的とする。主な成果は次の通りである。 (1)従来,負の材料因子とされてきた水素に着目し、高濃度の水素を含んだTi-H系粉末押出加工材に対する組織構造解析および力学特性調査を通じて、チタンの高強靭化に寄与する水素の元素機能を明らかにした。hcp構造のc軸が押出方向と平行に配列した〈0001〉集合組織を形成し、剛性の向上とそれに起因する耐力の増加を実証した。また、チタン結晶粒を分断するように析出した水素化物(δ相)が変形双晶の局所的発生およびその進展・粗大化を抑制することで、材料全体に大きな均一変形が生じて高い延性を発現することを実証した。その際、水素化物自身が十分な塑性変形能を有し、素地の引張変形に伴って延性的に振る舞う挙動を走査型電子顕微鏡内でのその場観察により明らかにした。 (2)チタンの固溶強化能に優れる酸素原子を用いたTi-O系粉末押出加工材の高強度・高延性に寄与する酸素の影響を解明すべく、固気直接反応法による酸素原子の導入、完全均質固溶化プロセスの設計、高濃度の酸素導入が力学特性に及ぼす影響について調査した。酸素含有純チタン粉末焼結体に対して均質化熱処理と熱間押出加工からなる複合プロセスを適用し、完全な酸素原子固溶体組織の実現に成功した。その際、導入した全酸素原子による固溶強化により、例えば、酸素含有量が0.58 mass%の純チタン材においては引張耐力;1004 MPaとなり、従来チタン材の2.5倍を超える高強度を達成した。また、固溶強化理論(Labusch model)に基づく数値計算の結果、本チタン材における主たる強化機構は酸素原子固溶強化であると明らかにした。
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