研究課題/領域番号 |
25249104
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
本間 敬之 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (80238823)
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研究分担者 |
福中 康博 早稲田大学, 付置研究所, 教授 (60111936)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | めっきプロセス / 電気化学的核発生制御 / 電極表面反応解析 / ナノスケール微細構造解析 / ナノパターニング / モデリング / 非水溶媒電析 / 微細構造形成 |
研究概要 |
情報関連機器や自動車用電源として二次電池の一層の高性能化が求められている。さらに昨今のエネルギー事情から、再生可能エネルギーを基幹電力ネットワークと連系させるため、より安価で資源的リスクが少なくかつ安定した充放電特性を示す大規模エネルギー変換貯蔵デバイスの開発が急務となっている。このようなデバイスにおいては、充放電反応操作に伴う電極表面変化の制御、すなわち表面状態と直結した電池可逆性の保証が重要となる。従来充放電挙動に関する検討は膨大に重ねられているが、それに伴う金属種の析出/溶解プロセスの詳細については未だ不明点も多い。そこで本研究ではこのような電気化学反応による金属核発生の解析およびその制御に着目し、反応プロセスを実験的・理論的アプローチから系統的に解析すると共に、マルチスケールでの解析を可能とするモデルの構築を目指している。 初年度である本年度は、研究に必要な種々の要素技術の確立を中心に検討を進めた。まず初期析出過程の基礎解析として、研究者らが従来より検討を進めているCoPt系電析プロセスの成果を踏まえ、析出のごく初期すなわち単結晶子が核発生したレベルからの解析を可能とする手法を確立した。同様に、非水溶媒系からの電析プロセスについて、水晶振動子マイクロバランス法を用いて解析する手法の検討を進めた。またごく微小な初期核発生状態の試料を大気暴露による酸化の影響なく解析可能とするための雰囲気遮断試料交換器を導入し、Si電析系を適用し立ち上げを行った。さらに電極表面における反応プロセスについても、種々の表面吸着化学種が関与する系、例えば電池電極反応の鍵を握る表面被膜(SEI:Solid Electrolyte Interface)の形成に関わる挙動および表面の原子レベル欠陥の影響などについて、顕微ラマン分光法および理論解析を用いて解析する手法を確立すべく基礎的な検討を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前項に示したように本年度は本研究の推進に必要な種々の要素技術の確立を中心に検討を進めている。まず析出のごく初期の解析については、基板表面にてナノスケールでの核発生・核成長を制御する手法を、そのための微細加工を施した基板を形成する技術も含めて確立した。数nm~百数十nm径程度の微細な開口部を基板表面に均一に形成可能となったが、これは今後系統的な検討を進めるために有効である。またこのようにして形成した試料を、高分解能電子顕微鏡にて極めて高コントラストで観察可能とする前処理手法も確立し、析出ごく初期の単結晶子レベルでの核発生確認ができるレベルに到達した。また、新たに導入した雰囲気遮断試料交換器の適用により、グローブボックス内で形成された試料を酸化を抑制した状態で組成分析など種々の解析が可能であることを確認した。この手法を用いてイオン液体からのSi電析薄膜の解析を行った結果、特に析出初期に溶媒分子との相互作用によると思われる特異な層状構造の形成が認められた。また後段ではこのような構造がランダムになり、表面ラフネスが増加していくことが認められ、このような系においては溶媒分子種との相互作用も重要な因子となることを確認した。これらについては引き続き詳細な解析を進めている。また反応に関与する種々の化学種の電極表面における挙動解析についても、表面増強型の顕微ラマン分光法により高い深さ分解能で解析可能であることを確認した。 一方、電極材料として着目するZn系に関しては、まずアルカリ水溶液中のZn負極の溶解現象について[Zn(OH)4]2-イオンの化学的及び電気化学的溶解度の定義を明確にする必要があると考えられ、この点に関する検討に着手している。また初期核発生過程の精密な解析を行う手法としてダブルポテンシャル法に着目し、その適用を進めている。以上より、初年度は概ね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に確立した要素技術を基に以下のような検討を行う。まず水溶液中での金属核発生やアルカリ水溶液中のZn負極溶解反応に伴うZnOの析出などについて、従来得られている知見も踏まえ系統的に確認する。特に[Zn(OH)4]2-イオンの化学的、電気化学的溶解度の明確化がまず重要な課題となるため、顕微ラマン法をはじめとした分光学的手法による解析に理論解析を組み合わせて検討を進める。また、[Zn(OH)4]2-イオンから脱水反応が関与したZnO析出過程の不均一反応速度論的解析を実施する必要があるが、多孔質構造体を模擬したミクロポア物理モデルを構築し検討を行う。その際、均一系と不均一系の速度論を如何に組み込むかが課題と予想されるため、この点に留意しながら検討を進める。 金属の電析核発生挙動について、Zn系との比較検討を行うため、Ag系に関しても検討を行う。ダブルポテンシャル法による実験的アプローチ、および計算機シミュレーションを用いた理論的解析の双方から検討を進め、水溶液中の電析核発生成長現象の計測、及び解析手法を確立する指針を得ることを念頭に置きながら解析する。 また非水溶媒のモデルとしてのイオン液体を用いた系に関しては、本年度確立した手法に基づき検討を進めるが、まず電気化学測定(サイクリックボルタモグラム)を高精度に再現よく行える手法を確立する。特に参照電極の安定性や配置が重要となるため、この点に留意しながら検討する。得られた結果を踏まえ、不活性雰囲気(グローブボックス内)でのイオン液体系や有機溶媒系を対象に、ダブルパルスポテンシャル法による電析核発生・成長現象の解析に着手する。表面のSEI形成過程を顕微ラマン分光等種々の手法を用いて解析し、SEI層内部でのクラスター凝集から核発生、さらにデンドライト前駆体を経てデンドライト成長過程を記述できる多階層モデルの構築を目指す。
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