研究課題/領域番号 |
25249113
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
和田 雄二 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (40182985)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | マイクロ波 / マイクロ波特殊効果 / マイクロ波非熱的効果 / 電子移動 / 非平衡局所加熱 / 界面分極 |
研究実績の概要 |
マイクロ波発振半導体増幅器を用いて、下記の化学反応系の基礎的研究を行い、それぞれの系におけるマイクロ波照射の特徴を検討し、以下の成果を得ることができた。 〇エチルベンゼン脱水素反応触媒としてマグネタイトに対して600℃という比較的高温における固体触媒層内の温度分布を実測し、計算シミュレーションによる理論解析と比較検討した。シミュレーションにより温度分布が再現できることが確認でき、ここで得られた温度分布を用いて、マイクロ波照射下での反応速度を見積もると、通常加熱に較べて反応速度が加速されていることを示唆する値となった。〇コア‐シェルゼオライトのコア部分に埋め込んだ炭素をマイクロ波による非平衡局所加熱の状態とし、シェル部分で起こる固体酸触媒作用による液相アルコール脱水反応を制御することが可能であることを示した。チタン酸バリウム粒子表面にシリカ層を被覆し、このシリカ層内にローダミン6G分子を吸着導入した粒子の分散液にマイクロ波を照射した系に対して、ローダミン6G分子の蛍光寿命の変化を用いてチタン酸バリウム表面の“非平衡局所加熱”を検証した。〇ニッケル粒子分散系におけるビピリジニウム誘導体への電子移動速度がマイクロ波によって加速される効果を速度論的に解析した。〇光吸収により硫化カドミウムナノドット内に発生した励起電子の電子受容体としてのビピリジニウム誘導体への移動速度が、マイクロ波照射下では促進されることを実験的に検証した。〇ガラス基板上に形成した銀粒子含有インク膜のマイクロ波焼成による導電性賦与に成功した。〇液中に含浸したプラスティック基板のマイクロ波による非平衡局所加熱を利用した銀ナノ粒子発生制御に成功した。〇フッ素ドープ酸化スズならびに酸化チタンペーストの2種の異なる物質間界面のマイクロ波による非平衡局所加熱現象を発見し、電場の侵入角度が重要であることを明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1)電磁波エネルギーの熱への転換を引き金とする非平衡加熱現象: 無機粒子表面における“非平衡局所加熱”状態を検証する手法として、蛍光性有機分子(ローダミン6G)の蛍光寿命の温度依存性を利用する手法を考案し、その実効性を確認することができた。当初予定したラマン分光を用いる手法に較べ、プローブを挿入する必要がないこと、ラマン散乱強度による素材選択の限定がないことから、各段に優れた手法を得ることができた。 2)電場・磁場による電子エネルギー摂動現象:分散金属表面における電子授受反応に対するマイクロ波効果の検証:水中に分散したニッケル表面でのビピリジニウム誘導体への電子移動反応に対するマイクロ波加速効果を速度論的に解析した。この反応は、ラングミュア―ヒンシェルウッド型で進行し、電子移動にマーカス理論を適用することにより、電子供与体と電子受容体の波動関数重なり積分がマイクロ波照射下では増大していることが示された。 3)光誘起電子移動反応におけるマイクロ波効果の検証:金属硫化物半導体ナノ粒子薄膜(硫化カドミウム薄膜)表面と分子(ビピリジニウム誘導体)間における光誘起電子移動について、マイクロ波効果を実験的に直接検証した。マーカス理論による解析を行い、この系で観測できたマイクロ波による電子移動の加速効果は、電子供与体としての硫化カドミウムと電子受容体としてのビピリジニウム誘導体の波動関数の重なり積分を増加に起因していることがわかった。この電子移動反応に対するマイクロ波効果の理論的理解は、励起状態からの電子移動反応に利用でき、今後、光触媒作用、人工光合成系、色素増感太陽電池などにおける効率の向上に有効と言える。 4)新規な界面分極を機構とするマイクロ波加熱現象を見出し、その解析を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
電子移動に対するマイクロ波効果の機構解明‐今までの研究によって、電子供与体と電子受容体の波動関数の重なり積分がマイクロ波照射下では増大することが、マイクロ波による電子移動速度の加速の原因であることがわかっている。現在この重なり積分の増加が、無機粒子中のキャリアーの固有振動と関わっていると考いる。キャリアーの固有振動への共鳴現象であれば、マイクロ波の周波数が加速効果に関係するはずである。この仮説を明確化するために、電子移動速度加速に対するマイクロ波周波数の効果を調べてゆく計画を立てている。今までの2.45 GHz固定に対して、2.45 GHz±0.05 GHz、5.8 GHz、915 MHzを用いる。
固体触媒へのマイクロ波利用‐シミュレーション研究によって、新たに固体触媒の粒子の接触点にはマイクロ波の電場集中が起こり、周辺に較べ数10℃から100℃程度の高温の出現が預言できた。この現象を、直接観察するために、サーモビューワーで捉えられるサイズのモデル実験を行う。モデルに対して、実験的ならびにシミュレーション検証を行い、接触点非平衡加熱現象の理解を進める。この現象を利用し、マイクロ波照射固体触媒系について、モデル反応を用いて速度論的検証を行い、マイクロ波加速効果がこの接触点非平衡加熱現象に起因する可能性を追求する。
異相界面分極加熱現象の解明‐金属/金属酸化物、金属酸化物/金属酸化物の界面で起こるマイクロ波による非平衡局所加熱現象の機構解明を、非線形光学現象(高次高調波発生)の観測によって明らかにする。この現象を利用し、自動車排ガス処理触媒等の短時間加熱立上等の技術検討を行う。
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