研究課題/領域番号 |
25249128
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
小林 英一 神戸大学, 海事科学研究科(研究院), 教授 (90346289)
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研究分担者 |
橋本 博公 神戸大学, 海事科学研究科(研究院), 准教授 (30397731)
田原 裕介 独立行政法人海上技術安全研究所, その他部局等, 研究員 (10264805)
越村 俊一 東北大学, 学内共同利用施設等, 教授 (50360847)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 津波 / 数値流体力学 / 船体漂流計算 / 岸壁影響 / 横移動 |
研究実績の概要 |
波高や流速などの津波流況の予測情報については、船舶漂流計算の境界条件として利用される.特に,港湾内や陸域における津波の流速の予測精度は,極めて重要である。これまで検証が不十分であった流速の再現精度に着目して、津波氾濫シミュレーションの評価および精度改善に向けての課題を明らかにした。 CFD(数値流体力学) を活用して、岸壁と船舶が近い状態あるいは水深の浅い状態などの”制限水域”で船体に作用する流体力を求めるため、まずは計算環境整備とその計算精度の確認を行った。用いたCFD計算コードは CFDSHIP-Iowa version 4 で、米Iowa大学で開発されたRaNS法スキームである。対象船型は港湾内で高い危険度を持ち、港湾内を漂流すると多大な影響を及ぼすと思われる大型タンカー船とし、過去に多くの操縦性実験が行われた ESSO OSAKA 船型を用いている。まずは、定常状態である横移動時の船体抵抗係数や浅水影響などの過去の水槽実験結果との比較を行い、良好な結果が得られている。このことから、ソルバーおよび対象船型のメッシュの精度確認は十分に行うことができた。 また津波来襲が予想された時、緊急時の操船をシミュレーションしてその評価を行わなければならない。特に着岸状態からの緊急避難については、タグのサポートの有無やスラスターなどを考慮して幅広く評価しなければならない。しかし、船舶が着岸状態から離岸する時に発生するサクションフォースや岸壁影響と呼ばれる力のモデルは無い。 そこで本研究では、岸壁に見立てた壁に沿うように模型船を配置し、真横方向への一定力加えて、その時の船の横移動の計測を行った。その結果、岸壁に近い領域において、付加質量の増加とみなすとその挙動をよく表すことが出来ることがわかっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CFD計算については、定常状態である深水時の船体抵抗については、モーメントも含めて水槽実験結果と比較して非常によい結果を得ている。浅水影響については、H/D=1.5及び2.0にて真横移動近傍角度についての抵抗係数は実験結果とほぼ一致する結果を得ている。側壁影響や浅水影響との練成については現在取り組んでいるところであり、今後シリーズ計算を開始する予定である。 同じCFDを用いて、別船型ではあるが、大規模な波浪中に大規模な運動を伴う非定常な流れ中における流体力の計算を行い、水槽実験結果とのよい一致を得ている。このことから、タンカー船型において津波という長周期波浪中に大規模な運動を伴う現象について、本CFDは適用可能であると考えている。 実験に関し、模型船は2.5mスケールのVLCC船型のESSO OSAKA用いた。岸壁影響の無い実験結果と、岸壁影響のある実験結果の比較により船幅B/4の距離まで付加質量を船体排水量の3倍とすると実験結果をよく表していた。このことから、岸壁影響は船体の移動速度などには依存せず、岸壁との距離と、船体に加速度に依存するものと考えている。しかし船型による違いやd/LやB/Lの依存などについての調査が必要である。 津波流の計算については、2011年東北地方太平洋沖地震津波をケーススタディとして、実海域データに基づく津波流況の再現性の評価を行うことができた.
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今後の研究の推進方策 |
津波・船舶複合連鎖系解析システムの構築に向けて、津波発生・伝播・遡上の予測シミュレーション,3次元流体解析のシミュレーション、船舶運動系のシミュレーションの統合に取り組む.研究分担者と協力し,特に、実地形での船舶運動系シミュレーションと連成するための境界条件,計算格子選定条件を精度との関連で明らかにする予定である。 CFD計算について、今後はより複雑な非定常な制限水域中における流体力について取り組む。まずは船体を離岸させる際に働く流体力について取り組む。離岸という、船体と側壁との距離が時々刻々と変化するような計算は、重合格子故に可能となる計算であり、本研究の目的を達成するために重要なタスクであると考える。その後、側壁影響や浅水影響といった個別の影響を連成し津波の流れ中という非常に水槽実験の困難な状況での船体に働く流体力の調査を行う。 このCFD計算の精度検証や、津波中での特徴的な運動解析について、岸壁と密着した状態からの運動はよく表すことができた。一方で少し離れた位置からの運動との比較を行うことにより、岸壁影響の及ぶ範囲と力(付加質量)の大きさを実験にて確認を行うことでより正確な結果が得られると思われる。 また、実際の操船では真横移動による離岸だけでなく、船首尾のどちらかを先に動かすという、回転運動を伴ったものである。そのため、回転運動を伴う離岸時の岸壁影響を調査する実験を行う予定である。さらに、「岸壁に係留している船舶が強い流れを受ける」という津波特有の現象下での船体に働く力について水槽実験等を通して調査していく。
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