研究課題/領域番号 |
25249132
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
上田 良夫 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30193816)
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研究分担者 |
中村 浩章 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 教授 (30311210)
帆足 英二 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40520698)
鈴木 哲 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 核融合研究開発部門, 研究員 (60354619)
LEE Heun Tae 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90643297)
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研究期間 (年度) |
2013-05-31 – 2017-03-31
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キーワード | タングステン / 非定常熱負荷 / 溶融層ダイナミクス / ベーパーシールディング / CIPシミュレーション |
研究実績の概要 |
本年度の研究の概要は以下の通りである。 (1)純W(純度4Nと5N)、W-Re合金、W-Ta合金、微結晶粒W(TaC添加材)について、ディスラプション様熱負荷(パルス幅:0.25 ms~1.0 ms、熱負荷:最大6.4 GW/m2)を与えて溶融・凝固の様子を調べた。溶融層は表面に同心円状の凹凸ができ、何らかの表面不安定性を反映していると思われる。また、さらに熱負荷が高くなり、沸点を超えると思われる条件では、ほとんどの材料において突沸現象が見られたが、唯一、W-Re合金では見られず、溶融層の安定性が高いことがわかった。 (2)20MW/m2で300サイクルの試験を行なったWモノブロック(表面温度2000℃以上)について、溶融限界の約1/4の熱負荷を最大10^4回繰り返し与えたところ、粒界で亀裂が生じた試料については、その亀裂が粒界全体に進展し、粒放出が観測された。しかしながら、表面がいったん溶融して凝固した場合は、粒界放出に要する繰り返し数が大きくなる傾向が示された。このことから、表面を溶融させることで、繰り返し非定常熱負荷への耐性を高められる可能性が示された。 (3)タングステン表面にアルミの堆積層を形成した試料について、パルスプラズマにより熱負荷を与えてその溶融と放出挙動を調べた。溶融後の表面には、明確には脆い合金層を形成しないことがわかった。 (4)溶融層の挙動をCIPシミュレーションにより計算した。EOSの不明確な部分は、物理的に妥当と思われる外挿を行なった。シミュレーション結果より、ディスラプション時の溶融層挙動については、表面張力の影響が重要であることが示された。 (5)これまでのベーパーシールドのシミュレーション結果をサーべーし、今後の方針を検討した。新たなコードを作成するに当たり、シースの取り扱いが重要であることが認識された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的である溶融層ダイナミクスの解明については、実験・シミュレーションともいくつかの課題は残っているものの、目的遂行のための準備はおおよそ整ってきた。実験では真空中でのパルス熱負荷実験を行なうためのレーザー、真空容器、中心スポット温度測定のための2色温度計の整備、及びCIPシミュレーションコードの整備などである。来年度は測定結果やコードの信頼性の確認を行ないつつ、系統的なデータの取得や対応するシミュレーションが可能となる見通しである。特に溶融層のシミュレーションで重要となるEOSの扱いについては、今後精度を上げるために、主に理論的なアプローチを進めていく。 実用機器であるITERモノブロックの表面損傷影響については、おおむね実験は終了し結果を論文として投稿している。今後は、表面の修復と長寿命化の観点から表面堆積層の影響や、表面溶融修復の可能性を探る実験に移行するが、すでに表面堆積層の形成やそのパルス熱負荷による損失と基板タングステン材料への影響については予備実験を行なっており、研究期間内に成果がまとめられる見通しである。 ベーパーシールドについては、既存のモデルの検証が終わり、当面の方針であるシースの領域の精度良い計算方法を取り入れた1次元モデルについては、コードの製作を開始している。来年度中には、先行研究との比較が可能となるレベルに達することが見込まれる。さらに研究期間終了までに2次元化などさらに進展が予想され、最終的には当初の計画以上の進展が見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
溶融層ダイナミクスに関しては、エネルギー密度、パルス幅、パルス波形(任意波形が可能)を変化させることで、系統的なデータを取得し、溶融層シミュレーションと対応できるデータを修得する。これにより、特に沸点に近づいた場合の溶融層の挙動を支配する物性値やシミュレーションモデルの妥当性を議論し、溶融層ダイナミクスの解明を行なう。さらに、タングステン以外の物性のよくわかった材料(アルミ等)についても実験とシミュレーションの比較を行なう。 表面損傷を持つタングステンの修復、及び長寿命化にかかわる研究として、表面堆積層の影響を種々の堆積層について検討する。具体的には、シリコン、アルミ、スズ、等の中間融点材料がパルス熱負荷に対する保護層として機能するための条件を明らかにする。さらに表面損傷を持つタングステンについて、表面溶融修復の可能性を明らかにする。 ベーパーシールドについては、シミュレーションコードの開発を特にシース領域まで含めたPICシミュレーションにより行ない、実験との対応性の評価や今後の課題の抽出を進める。研究期間終了時には、2次元のシミュレーションを行なうことを目標とする。
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