研究課題
リチウムイオン二次電池を代表とする蓄電デバイスの高性能化、新規高性能蓄電池を実現するためには、デバイス内で逐次的に進行する、空間・時間的に広範囲にわたる階層反応を理解する必要がある。リチウムイオン二次電池の反応では複数の現象が絡み合っており、なおかつ非平衡状態であるため、従来の蓄電池研究で使用されてきた解体分析では、反応速度の支配因子や劣化機構を的確に把握できないのが現状である。高速充放電下相変化では、平衡状態の相変化と異なった挙動が起こる可能性がある。従来は平衡状態での相状態、電子状態の解析を主として行われてきており、デバイスの性能に直接関わる非平衡構造変化の情報すら得られていないのが現状であった。その結果、二相系電極材料の格子体積変化を抑制すると、熱力学的には不安定だが速度論的には安定な別の反応経路を経由し高速充放電特性が向上することを、実際の電池作動下における時間分解X線回折法の適用により明らかにした。さらに、二相間の格子体積差を小さくすることで、合剤電極スケールにおけるクラック発生の低減により従来の6倍以上の電池寿命を達成した材料に着目し、この材料は相間のひずみが小さいため、速度論的に良好な特性を示すと予測した。実験の結果レート特性が向上しており、その要因を非平衡状態における結晶構造の解析から、相変化の速度論的な遅れにより反応の大部分が相分離せず単相で進行したためであると明らかにしている。二相界面の整合性の上昇により界面エネルギーが低下し、相変化の駆動力であるGibbsエネルギー低下分が縮小したことが原因と考えられる。以上の知見は今後の二相系電池材料の設計において格子体積差が寿命と入出力特性のより一層の向上のためのキーファクターとなることを意味しているものであり、今後の高入出力リチウムイオン二次電池の正極開発の指針を与えるものである。
1: 当初の計画以上に進展している
リチウムイオン電池は今や小型電子機器用電源の枠を超え、大型エネルギー貯蔵媒体として持続可能な社会の実現に向けて活発に研究開発が進められている。特に自動車の動力源としてエンジンの代役となるためには入出力特性のさらなる向上が不可欠であり、高速に反応が進行しうる電池材料設計・探索が研究機関の責務となっている。この現状の問題を解決すべく、トポケミカル反応の速度論的解析を試み、動的な電気化学反応進行下ではイオンや電子が絶えず移動し、電極活物質の電子構造や結晶構造が連続的に変化しており、系は必ずしも熱力学的に予測されうる挙動を示すとは限らずむしろ非平衡状態にあり、その現象解明は電池性能向上の一助となることを示した。これは当初の計画通りである。さらに、二相系電極材料の格子体積変化を抑制すると、熱力学的には不安定だが速度論的には安定な別の反応経路を経由し高速充放電特性が向上することを、実際の電池作動下における時間分解X線回折法の適用により明らかにした。このように、機構解明にとどまらず、得られた知見から推測した材料設計指針に基づき、高性能な材料の開発に成功している。
リチウムイオン二次電池を代表とする蓄電デバイスは、高効率電気化学エネルギー変換デバイスであり、自動車等の移動媒体用電源やスマートグリッドの本格普及での使用等、今後の環境・エネルギー問題の解決に向けて大きな役割を果たすと期待されている。これらデバイスの高性能化、新規高性能蓄電池を実現するためには、デバイス内で逐次的に進行する、空間・時間的に広範囲にわたる階層反応を理解する必要がある。リチウムイオン二次電池の反応では複数の現象が絡み合っており、なおかつ非平衡状態であるため、従来の蓄電池研究で使用されてきた解体分析では、反応速度の支配因子や劣化機構を的確に把握できないのが現状である。申請者は、放射光X線の強い透過能、高い時間・空間分解能を利用し、それぞれの反応スケールに適した新規その場測定手法を放射光X線と組み合わせて開発し、蓄電池作動条件下での反応を直接観測し、反応機構を解明している。今後は、この成果をまとめるとともに、これまでに培った測定系の理解とノウハウを基に、詳細なリチウムイオン二次電池材料の階層的反応機構解明にとどまらず、高性能材料開発や合剤設計に結実させる。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (21件) (うち国際学会 8件、 招待講演 4件)
J. Power Sources
巻: 119 ページ: 122-126
10.1016/j.jpowsour.2016.01.077